表題番号:2011B-158 日付:2012/03/12
研究課題コアキャッチャ開発を目指したナノ流体沸騰伝熱性能予測に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 特任教授 師岡 愼一
研究成果概要
1.緒言
ナノ流体によって限界熱流束(以下、CHF=Critical Heat Flux)が増大することは多くの研究者により確認されており、原子炉の苛酷事故対策や熱流体機器への適用が検討されている。例えば、苛酷事故発生時、溶融炉心が原子炉圧力容器(RPV=Reactor Pressure Vessel)底面に堆積した際、溶融炉心をRPV内に留める為には、RPV底部の除熱限界、つまりCHFを高める必要がある。そこで、RPVを水没させて冷却する際、冷却水にナノ流体を用いる案が検討されている。しかしながら、ナノ流体によるCHF増大のメカニズムは明らかになっていない。本研究では伝熱表面の時間変化を極力排除し、加えて沸騰様相の可視化も可能な試験を行う為、試験体として白金線を用い、まずナノ流体中で沸騰を行い白金線表面にナノ粒子層を堆積させた後、試験体を取り出し純水中でCHF試験を行った。本研究の目的は、ナノ流体がCHFに与える影響を試験的に検討し、加えてCHFが増大するメカニズムを明らかにすることである。
2.試験方法及び装置
試験は純水、大気圧、プール沸騰で行い、試験体には外径0.3mm、長さ50mmの白金線を用いた。まずナノ流体中で通電し白金線表面にTiO2を堆積させ、純水で満たしたCHF試験装置に試験体を移動しCHFを測定した。高速度カメラを用いて伝熱面を撮影し、発泡点密度の測定も行った。
3.試験結果及び考察 
表面にナノ粒子が堆積すると発泡点密度が減少し、発泡点密度が小さくなるに従い、CHFも増大している。そこでCHF増大の道筋を試験データに基づいて、次のように考えた。(1)ナノ粒子が表面に堆積し、多孔質層を形成する。これにより濡れ性が改善され、毛管力が増大しキャビティに水が入り込み易くなる。そしてキャビティ内部の気泡は凝縮され消滅し、キャビティが不活性化する。(2)不活性なキャビティの増加により発泡点密度は減少し、気泡間の液膜量が増大する為、ドライアウトを起こし難くなりCHFが増大する。このような流れでCHFが増大していると考えられる。
4.結論 
TiO2のナノ流体、白金線を用いて行った大気圧より得られた結果を要約すると、
(1) TiO2のナノ流体により プール沸騰のCHFは、最大200%増大した。ただし、沸騰熱伝達率は小さくなる。
(2) ナノ粒子が堆積した伝熱面(ナノ粒子堆積面)は、清浄面に比較して発泡点密度(単位長さ当たりの沸騰核)が大幅に減少する。
(3) CHFの増大率と発泡点密度減少率は強く関連している。