表題番号:2011B-134 日付:2012/04/16
研究課題環境調和型プロダクト・サービス・ビジネスの設計支援技術の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 高田 祥三
研究成果概要
1. 序論
 環境問題の深刻化にともない,製造業は循環型生産に基づく環境調和型ビジネスへの移行が求められている.環境調和型ビジネスとは,「環境負荷削減方策を組込むことで,顧客価値と収益性を保ちながら従来よりも環境負荷削減を実現するビジネス」と定義する.従来の売切り型ビジネスでは,多くの場合3R (Reduce, Reuse, Recycling) の組込みは難しい.それは,使用・廃棄段階においてメーカによる管理ができず,使用履歴の把握や回収が容易でないからである.このような売切り型ビジネスからの脱却,およびそれによる環境負荷削減の期待から,近年,製品サービスシステム(以下PSS)の概念が注目されている.しかし,PSSに基づく環境調和型ビジネス設計手法に関する従来研究は,事例に基づいたものが多いが,成功事例が少なくPSSビジネスと環境負荷削減効果の間の関係について十分な知見が得られていない[1].
 本研究では,PSSビジネスにおける製品サービス提供形態に着目し,環境負荷削減効果との関係を検討する.ここで,製品サービス提供形態とは,「機能実現のための製品・サービスの構成,およびそれらを提供するための契約方法の組み合わせ」と定義する.まず,製品サービス提供形態と環境負荷削減方策の対応関係をそれらのメカニズムに基づいて分析する.そして,作成した対応表を基に,対象製品の特性に応じて選択される環境負荷削減方策を有効に機能させる上で効果のあるサービスと契約方法の組み合わせを導出し,環境調和型ビジネス設計支援に役立てることを目的とする.なお,本研究では,既存の提供形態の改善設計を目的としているため,製品改善や新規ビジネス設計は対象としない.

2. 製品サービス提供形態と環境負荷削減方策の整理
2.1. 製品サービス提供形態の構成要素
 従来,製品サービス提供形態の変更,例えば,売切り型からレンタルへの変更による環境負荷削減の可能性などは議論されている[1].しかし,レンタルにより,組込み可能となる具体的な環境負荷削減方策とその削減メカニズムは明確にされていない.このことから,製品サービス提供形態を特徴づける要素を明らかにし,それらが個々に,環境負荷削減方策に対して与える影響を分析することが必要である.本研究では,製品循環の中で顧客と関連する要素として,所有権,期間,使用者,使用場所,メンテナンス実行者,回収者,引取場所の7つを製品サービス提供形態の構成要素として扱う.
2.2. サービスの分類
 サービスは,提供物の面から,行為,情報,金融に分類できる.また,梅田の環境サービスの分類を基にすると,製品および製品LCに関する「LC管理型サービス」と,直接顧客に提供される「ユーザ指向型サービス」に分類できる[2].本研究では,このうち製品のLC管理に直接影響を与え,環境負荷削減効果が高いと考えられるLC管理型サービスを扱う.また,提供物としては,行為の提供として「作業請負」,「場所提供」,「回収」を,情報の提供として「助言」を考える.
2.3. 環境負荷削減方策の整理
 環境負荷削減方策は,木村ら[3]に整理されたものを拡張して,メンテナンス,製品リユース,部品リユース,リサイクル,適正条件使用,適正環境使用,共同利用,複数量処理を考える.

3. 製品サービス提供形態と環境負荷削減方策の対応表
(1)環境負荷削減方法の整理
 使用段階の主な環境負荷削減対象として,資源とエネルギがある.資源の削減方法は,生涯台数と運用台数の削減に分類できる.生涯台数は,各顧客が一定期間中に使用する台数を意味する.運用台数は,ある期間において同時に運用する台数を意味する.生涯台数の削減は,「メンテナンス」,「適正条件使用」,「適正環境使用」,「製品リユース」に対応する.運用台数の削減は,「共同利用」に対応する.エネルギは,原単位の低減と使用量の削減の2つがある.原単位の低減は製品改善にあたるので今回は扱わない.使用量の削減は,使用回数,使用時間の削減,および運転状態の改善に分類できる.使用回数の削減は,「適正条件使用」,「複数量処理」,使用時間の削減,運転状態の改善は「適正条件使用」に対応する.
 製造段階の環境負荷削減対象は,主に資源である.資源の削減方法としては,「部品リユース」,「リサイクル」がある.
(2)製品サービス提供形態の構成要素との対応付け
 各環境負荷削減方策が「人」,「場所」,「提供方法」,「LCフロー」のどれにより実行されるのかという実行因子を把握する.そして,「人」,「場所」は,代替・促進,「提供方法」は配置方法,「LCフロー」は介入の改善策を適用し,製品サービス提供形態の構成要素と対応付ける.「人」は,使用者,保守実行者と対応する.「場所」は,使用場所と対応する.「提供方法」は,所有権,期間と対応する.最後に,「LCフロー」は,回収者,引取場所と対応する.各改善策の定義は以下に示す.
・代替:従来より適切に行える人,場所に変更すること
・促進:使用者に従来より適切な使用を促すこと
・配置方法:製品循環または,人の集合により使用すること
・介入:使用から廃棄のLCフローに介入し,再投入を実現すること
 例えば,「適正条件使用」は,実行因子が人であり,改善策として代替・促進が対応する.そのため,使用者の変更のために作業請負サービス,または使用者の行動改善のために助言サービスを付加することが有効である.

4. 製品サービス提供形態の導出方法
(1)環境負荷削減方策の決定
 LCAから環境負荷の大きいLC段階を把握する.削減対象より,製品に有効な環境負荷削減方策を選定する.
(2)製品サービス提供形態の構成要素の値の決定
 環境負荷削減を有効に機能させるために,必要な製品サービス提供形態の構成要素の値を変更する.

5. 掃除機への適用
(1)環境負荷削減方策の決定
 掃除機の製品耐用寿命は7年,製品価値寿命は8年である.環境負荷はLCAより,材料調達・部品製造段階が4割,使用段階が3割を占める[3].価値寿命のほうが長いため,生涯台数削減として,「メンテナンス」を適用する.また,掃除機は,使用時期のばらつきおよび非稼働時間が比較的多い製品である.そのため,運用台数削減として「共同利用」を適用する.エネルギ削減には,使用時間の削減をするため,「適正条件使用」を適用する.最後に,主要部品の最長寿命が10年であるため,「部品リユース」は行わず,「リサイクル」を適用する.以上より,今回は4つの環境負荷削減方策を組込む.
(2)製品サービス提供形態の構成要素の値の決定
 掃除機の特性上,使用場所は「顧客」となる.「共同利用」は,配置方法の改善策から所有権,期間を変更する.次に,「適正条件使用」は,代替・促進の改善策から使用者の変更,もしくは,使用者の行動改善をする.「メンテナンス」は,代替・促進の改善策から,保守実行者を変更する.最後に,「リサイクル」は, LCフローの改善策から,回収者,引取場所を変更する.これら4つの環境負荷削減方策の組み合わせを考え, 今回は29の製品サービス提供形態が導出できた.

6. 考察
 まず,環境負荷削減方策間のコンフリクトを考察する.「共同利用」により,製品の稼働率が増加する一方,劣化速度は速くなる.それに対して,「適正条件使用」により,劣化速度の減少およびエネルギ消費の抑制が可能となる.また,「メンテナンス」により,状態量の回復という効果もある.「リサイクル」による新規素材投入量の削減も可能となる.そのため,今回の場合,環境負荷削減方策間でのコンフリクトはなく,方策が多く組み込まれている案1,2が環境面では望ましいと考えられる.
 次に,環境負荷削減方策の効果の優先順位を考察する.「共同利用」は運用台数を削減するため,最も環境負荷削減の効果が期待できる.また,今回の場合,掃除機の平均使用時間が比較的短く,「適正条件使用」による使用時間の削減およびそれによる環境負荷削減効果は低いと考えられる.そのため,「メンテナンス」による長期使用の実現とそれによる環境負荷削減効果のほうが高いと考えられる.「リサイクル」は最後に必ず行われるものであり,全ての製品サービス提供形態に含まれる.以上より,今回の場合,環境負荷削減方策の効果の優先順位は,「共同利用」,「メンテナンス」,「適正条件使用」である.これに基づき,3つの方策を組込む場合の製品サービス提供形態の優先順位が付けられる.

7. 結論
 本研究は,製品サービス提供形態と環境負荷削減方策との関係をメカニズムに基づいて,分析的に解明することで,環境調和型ビジネスの設計支援法を提案し,掃除機へ適用した.実際の環境負荷削減効果はLCSによる検証が必要である.

参考文献
[1]佐藤雄太,環境調和型製品サービスシステム設計法,精密工学会春季大会学術講演会,2010, pp177-178.
[2]梅田靖,持続可能社会に向けた環境サービスイノベーション,精密工学会誌,Vol76,No.3,2010,pp257-260.
[3]木村文彦他,インバースマニュファクチャリングハンドブック,丸善,2004,pp57-60.
[4]小林英樹,製品ライフサイクルプランニング,オーム社,2003.