表題番号:2011B-124 日付:2012/03/17
研究課題カンボジアにおける蒸暑パッシブ住宅技術開発とその誘導施策
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 高口 洋人
研究成果概要
1.はじめに
 本研究では、経済発展による人口増加と生活水準向上が著しいカンボジアにおいて、将来的に見込まれる住宅内冷房エネルギー消費量の急増を抑制するためのパッシブ住宅技術の開発を行った。パッシブ住宅技術を導入する住宅タイプには、都市部で増加傾向にあるテラスハウス型の住宅を選定した。また、2010年度のシミュレーション研究により、テラスハウスの冷房エネルギー消費量急増抑制には、屋根面の遮熱対策が効果的である判明していたため、本研究では特に、テラスハウスの屋根面における蒸暑パッシブ住宅技術の開発を実施した。

2.パッシブ住宅技術の選定とシミュレーションによる室内温熱環境改善効果の事前検証
 先進国にて導入されている屋根面におけるパッシブ住宅技術を整理すると、アルミシートや塗料を用いて屋根面の日射反射率を高め、建物への侵入する熱量を減少させるものが多い。そこで本研究では、それらの代表的な手法としてアルミシートと高反射塗料を取り上げ、この2手法について、熱・換気回路計算プログラムNETSを用い、その導入による室内温熱環境改善効果の事前検証を行った。その結果、アルミ箔を屋根面から5cm浮かせて設置したモデル(以下、アルミモデル)では、一日の平均室温が現状モデルから3.5℃低下し、クリーム色の高反射塗料を屋根面に塗布したモデル(以下、高反射塗料モデル)では、現状モデルから2.6℃低下するという結果となった。

3.実測調査よる室内温熱環境改善効果の検証
 実測調査では、カンボジア王立大学(Royal University of Fine Art)の協力を得て、現地のテラスハウス一棟に対して順番に各手法を導入し、各モデル3日間ずつ室内温熱環境の実測データを収集した。
その結果、屋根面における一日の平均日射反射率は、現状モデルで37.8%、アルミモデルで74.1%、高反射塗料モデルで67.6%となり、屋根面からの一日の平均熱取得は、現状モデルで93.8[W/㎡]、アルミモデルで17.1[W/㎡]、高反射塗料モデルで24.6[W/㎡]となった。また、屋根面からの熱取得が減少したことで、アルミモデルでは現状モデルから、一日の平均屋根表面温度が平均3.9℃低下し、一日の平均最上階天井表面温度が平均2.7℃低下した。同様に、高反射塗料モデルでは屋根表面温度が2.0℃低下し、天井表面温度は1.6℃低下した。さらに、天井表面温度が低下したことで、最上階における室温、放射温度も低下した。アルミモデルでは、現状モデルから一日の平均室温が1.4℃低下し、一日の平均放射温度が1.3℃低下した。同様に、高反射塗料モデルでは、室温が0.5℃低下し、放射温度が0.5℃低下した。以上の室温、放射温度に関する実測データより、快適性指標SET*を算出したところ、アルミモデルでは、現状モデルから一日平均1.7℃の改善効果が見られ、高反射塗料モデルでは、一日平均0.4℃の改善効果が見られた。

4.シミュレーションによる年間住宅内冷房エネルギー消費量の削減効果の検証
 年間の住宅内冷房エネルギー消費量の削減効果を算出する為に、実測調査の結果を踏まえ、屋根面の日射反射率と開口部の換気流量係数の変更を加えた修正モデル作成した。そのモデルを用いてシミュレーションを行った結果、年間住宅内冷房エネルギー消費量は、現状モデルで7.7[GJ/年]、アルミモデルで4.7[GJ/年]、高反射塗料モデルで6.0[GJ/年]という結果となった。また、この年間住宅内冷房エネルギー消費量を電気代に換算すると、現状モデルでは405.7[USD/年]、アルミモデルでは249.1[USD/年]、高反射塗料モデルでは315.7[USD/年]となった。

5.まとめ
 カンボジアにおける蒸暑パッシブ住宅技術としては、アルミシートを屋根面の5cm浮かせて設置することが室内温熱環境改善に効果的であり、冷房エネルギー消費量の削減効果も高いことが明らかとなった。