表題番号:2011B-118 日付:2012/03/27
研究課題大気・土壌・水および葉中有害含酸素多環芳香族化合物の探索とその二次生成過程の追跡
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 名古屋 俊士
研究成果概要
本研究により得られた成果は,新しい環境化学研究分野の開拓につながる極めて意義のあるものとなった。その一部は昨年度の大気環境学会において発表し,高い評価を受けている。主な概要は以下の通りである。
大気・土壌・水環境中や植物葉中には様々な有害多環芳香族化合物が存在し,その一部は大気中での反応や土壌中微生物・植物による生分解等によって二次的に生成していることが予想される。その中でも,多環芳香族炭化水素(PAHs)の環境中での酸化によって生成しうる含酸素PAHsのいくつかは,アレルギー反応増強作用や内分泌撹乱作用などもとのPAHsとは異なる有害性があることが最近指摘されているが,それらの生成過程についてはほとんど解明されていない。そこで本研究では,『どのような有害PAHs酸化物』が,『どのような環境中』に,『どの程度の濃度で存在しているか』,さらに『それらがどのように生成したのか』を解明することを目的としている。本年度はその準備段階として特に葉中PAHsの分析方法の開発とその定量的動態評価に焦点をあてて研究をすすめた。
分析方法については,葉表面のクチクラ中PAHsの分析は,葉表面粒子を回収した後の葉をデシケーター内で乾燥させた後に,クロロホルム中で15秒間超音波抽出を行い,その後の操作は葉表面粒子と同様に行うが,これまでは,窒素気流下での試料溶液濃縮時に白い沈殿物が発生し,濃縮速度を遅らせる原因となっていた.この原因物質はアセトニトリルに溶けきれなくなったクチクラとみられ,改良型抽出法では前処理時にアセトニトリル使用量を極力抑えることで沈殿生成を防ぐことに成功した.
 さらに,実際のフィールド観測の結果から,葉中PAHsは,半揮発性である3環と4環PAHs,不揮発性である5環と6環PAHsはそれぞれ類似した濃度変動を示すが,半揮発性PAHsは気温上昇に伴って減少傾向にあるが,不揮発性PAHsには明瞭な濃度変動は見られなかった.また,6月に採取したコナラ葉では,高分子量の5環と6環PAHsが検出されなかったが,10月のコナラ葉では検出されていることから,コナラ葉面に沈着した粒子相PAHsのクチクラ層への溶解には時間を要することが示唆された.