表題番号:2011B-113 日付:2013/05/06
研究課題液中表面ナノ改質を用いたフィードバック型神経回路の作製と解析法の構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 谷井 孝至
研究成果概要
 脳の高次機能の理解と脳型機能の創発は現代に残された大きな課題の1つである。しかしながら、未だ記憶や情動のメカニズムの理解には至っていない。この理由は、実神経細胞を用いて、脳中の局所神経回路を人工的に再構成できないことにあると考える。あたかも“基板上に電子回路を作製するがごとく”任意の神経回路を基板上に再現できれば、回路の諸定数とその動作を詳細に調べることができ、脳機能の解明を大きく前進させるはずである。
 この目的のために、我々は、酸化チタンの光触媒能を活用して、複数の神経細胞を要素とする任意の局所回路をガラス基板上に再構成することを試みた。その結果、下記の進展および達成があった。
1)微粒子の酸化チタンをガラス基板表面にスピンコートして薄膜状にしたものと、スパッタ法によって酸化チタンを蒸着したものを作成し、その表面にオクタデシルシラン単分子膜を成長させる方法を構築した。
2)上記1)の2つの方法で作成したオクタデシルシラン単分子膜のどちらも、神経細胞の接着を阻害することが分かった。ただし、スパッタ法で作成した酸化チタン膜の方が、細胞の非特異的な接着が少なかった。
3)蛍光顕微鏡の水銀ランプまたは光リソグラフィ用のDeepUV光を局所的に照射したところ、酸化チタンの光触媒作用によって、照射部位の単分子膜が分解することが分かった。光触媒作用による分解は水中や細胞培養液中でも起きた。スピンコート法、スパッタ法のどちらでも、堆積後に充分なアニールを施すことによって光触媒作用が発現した。
4)上記3)の結果は、水に対する接触角の低下、赤外吸収分光法によるC-H伸縮振動ピークの減少から確かめられた。
5)細胞接着阻害膜を光触媒作用を用いて培養液中で分解すると、その部位にのみ細胞が接着し、細胞接着部位をパターニングできることが分かった。
6)神経細胞が接着した後、神経突起を伸長できる長さを非対称的に1本だけ長く伸長できるように、細胞接着阻害領域を予め作成しておくと、その長い1本が優先的に軸策となることが分かった。
上記の結果は、任意の神経回路をガラス基板上に再現するための要素技術が整ったことを意味する。