表題番号:2011B-112 日付:2012/04/04
研究課題室温強磁性希薄磁性体における強磁性発現機構に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 山本 知之
研究成果概要
非磁性の半導体や絶縁体に磁性元素を数at%程度添加することにより強磁性を発現する物質があり,希薄磁性体と呼ばれており,近年活発に研究が進められている.希薄磁性体における強磁性発現のメカニズムは未だに明らかにされていない部分が多い.特に,添加した元素の局所的な環境,すなわちマトリックス中の元素と置換しているか,格子間に存在しているか,また析出物として存在しているかを知ることが極めて重要であるが,それらは十分に検討が進められていない.また,磁性元素のスピン状態,価数などの電子状態についても添加した元素量が最大でも数at%と希薄なため,未知なものがほとんどである.これらのような背景を踏まえて,本年度は,置換固溶型の希薄磁性体における強磁性発現機構を検討するために,室温で強磁性を発現する酸化インジウムにFeとMnを数at%添加した多結晶焼結体を作製し,その中における磁性元素の電子状態解析をシンクロトロン放射光を用いた検討を進めた.試料は固相反応法を用いて作製し,MnとFeの価数を調整する元素として更にSn4+を数%添加した試料も同様に作製した.作製した試料は,室温において強磁性を示すことが確認されたが,Sn4+の添加量が増えるにしたがって,飽和磁化が減少することが確認され,Mnの添加量とほぼ同じ量のSn4+を添加した時点で,ほぼ常磁性となることも確認した.作製した試料の結晶構造について,粉末X線回折実験を行いビックスバイト構造の回折パターンのみが観測され,また,添加したMn,FeとInとのイオン半径の関係から,添加したMn,FeはInサイトに置換しているものと確認した.ただし,X線回折測定のみでは,結晶子の小さな析出物として存在している場合は検出することができないが,これまでのシンクロトロン放射光を用いた実験にてInサイトに置換することを既に確認している.今回は,MnとFeのL3端X線吸収スペクトルを測定することによりMnとFeの価数の評価を行った.これらの測定は分子科学研究所の放射光施設であるUVSORのBL-4Bにて全電子収量法により測定した.すべての試料においてFeは3+であることが示唆されたが,強磁性を示す資料においてはMnはMn2+とMn3+が混在していることが見いだされた.また,Sn4+の添加によりMn3+の量が減少し,MnとSnの量がほぼ同量となった時点で,ほぼすべてのMnが2+の状態になっていることがわかり,Mnの2+と3+の価数混在が強磁性発現に必要不可欠であることを見出すことができ,その結果を学術誌(Solid State Communications)に出版した.