表題番号:2011B-111 日付:2012/03/22
研究課題非平衡熱場の量子論の構築と冷却中性原子系への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 山中 由也
(連携研究者) 理工学術院 助教 中村 祐介
(連携研究者) 理工学術院 助手 井上 智喜
研究成果概要
 本研究課題の目的は、量子多体系の基礎理論である場の量子論に基づいて、非平衡過程を記述する熱場の量子論の構築にある。冷却原子系は、(1) 希薄で粒子間の相互作用が通常小さく実験と理論の直接比較を可能、(2) 多数の実験パラメーターが制御可能である、(3) 様々なゆっくり進行する非平衡過程が実現可能、(4) ボソン系のBose-Einstein凝縮相と非凝縮相間の転移や光学格子中の超流動-Mott絶縁体転移などの様々な相転移の存在、などの理由によりそうした理論の構築・検証に現在最適な系である。熱場の量子論の形式としては、Thermo Field Dynamics(TFD)を用いる。この方向の研究として既に冷却ボース原子気体系に対して、統一的観点から非平衡TFDの定式化を行った(Y. Nakamura and Y. Yamanaka, Ann. Phys. Vol. 326, 1070 (2011年4月))が、本研究ではさらに我々の用いるTFDと多くの物理学者が研究で用いているClosed Time Path法との相違を明らかにした。最も重要な相違点は、非平衡TFDでは粒子描像が時間と共に変わることに対応していることとGreen関数においてマクロな量に関して時間の矢の向きの因果律を満たしていることである。この研究成果は二つの研究会での招待講演(京都大学基礎物理学研究所 「熱場の量子論とその応用」 2011年8月 会議録は論文1、理化学研究所 「重イオン衝突と非平衡物理の理論的発展」 2012年2月)で発表した。
 非平衡TFDに関連した研究として、相対論的中性スカラー場に対しても我々の方法を拡張して、量子輸送方程式が導かれることを示した(論文2)。この成果は重イオン衝突のクォーク・グルーオンプラズマや宇宙初期の非平衡過程の研究に役立つものである。
 平衡系の冷却原子系の分野では、光学格子中の冷却原子系をBose-Hubbardモデルを用いて、Mott絶縁体-超流動に関わる有限温度における相図の研究を行った(論文3)。これはMott絶縁体-超流動相転移の非平衡過程を扱う準備となる。