表題番号:2011B-093 日付:2012/03/14
研究課題流体数学の観点からの非線型偏微分方程式研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 柴田 良弘
研究成果概要
(1) 圧縮性粘性流体の運動を記述する Navier-Stokes 方程式を2次元の外部領域で考え, 時間大域的な解の漸近挙動の研究を行った. 非線形偏微分方程式研究の中心的な話題である, 時間大域解の存在証明は, 線形化問題の解の減衰評価が鍵となる. 圧縮性の場合のNavier-Stokes方程式における連続体の方程式は、質量に対する輸送方程式である。したがって双曲型であるので、システム全体は双曲型・放物型の混合系である. 解の減衰評価を求めるには, 考えている領域が外部領域で非有界であるため、0が連続スペクトルに属する. 従って現時点では松村・西田による先行研究(Commun. Math. Phys. 89, 445-464(1983))で用いられたエネルギィー法しかない. 松村・西田によって得られた時間大域解の時間無限遠方での漸近挙動を求めることが, 本研究のテーマである. これは流れの安定性を示す研究である. 本年度は線形化問題の解のLp-Lq評価を求めた[7]. 2次元では基本解がlog オーダの特異性を原点にもつため. 解析が困難を極め先行研究はみあたらない. [7]では、特殊関数を用いて基本解の漸近挙動を求め, 特異摂動の方法で外部領域におけるparametrix を構成し, 局所減衰定理を示すことに成功した. これと全空間でのLp-Lq評価を cut-off 法によりつなぎ合わせて, 外部領域でのLp-Lq評価を求めた. 非線形問題への応用は来年度の課題となる. 非線形問題研究の重要な課題は, 外部領域での定常解とその無限遠方での漸近挙動の解析が重要なテーマであるが, この先行研究はA. Novotony氏の1990年代の一連の研究にさかのぼる. 2012年1月にNovotony氏を招聘し,5日間の集中講義と関連する研究討論により, 定常解の構成とその漸近挙動に関するNovotony氏の研究を完全に理解することができ, 来年度この定常解の安定性を今年度の結果を用いて示す. この研究は長年の懸案であり, 2次元ということが研究を達成するのにもっとも障害となっていたが、本年度の研究でその障害を乗り越えることができると確信する
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(2) 圧縮性粘性流体の運動を記述する Navier-Stokes 方程式の一般領域における任意の初期値に関する時間局所的解の一意存在を示した. この問題の先行研究は1950年代のNash
(ノーベル経済学賞受賞で高名)の研究に端を発し, いくつかの異なる方法により研究されてきた. ここでは線形化作用素のレゾルベントの一般領域でのR有界性を示すという極めて新しい方法による理論を構築した. 全空間と半空間でのモデル問題についてはその具体的な解表示に柴田・清水(J.Math.Fluid.Mech.2001)のフーリエ変換像に関する特徴づけ定理を応用してR-有界性を示した. さらに湾曲半空間では半空間からの摂動法により R有界性を示した. 一般領域では全空間, 摂動半空間の結果を単位分解を用いて合わせ, parametrixを構成しR有界性を示した. ここで開発した方法は, 1960年代に盛んに研究された, parameter elliptic equationに関する方法を, R bound はノルムのように使えるという特徴を生かして拡張したものである. これは非常に有効な方法であり, これから多くの問題に適用できると考える. 実際slip conditionや自由境界問題への拡張する研究を, 大学院生等とはじめた.
解析半群の生成とLp-Lq 最大正則性原理がR有界性からすぐに従う. これを応用して非線形問題の時間局所解の一意存在を示した. ここでの解の関数クラスはSolonnikov氏らのよく知られた先行研究とは本質的に異なるもので, 解のクラスの最良化を与えるのみならず, 考えている領域が一般領域であり, その境界の滑らかさも W2-1/2, r (r > N, Nは空間次元)と先行研究を大幅に改良した. さらに有界領域のときは, 小さな初期値に関する時間大域的解の一意存在を示した. 有界領域のときは (1)の非有界領域のときと違い, 圧縮性粘性流体の運動を記述する方程式は放物型非線形方程式となることが本質的である. この事実は松村・西田の研究の後, 1989にG.Stroeherにより指摘されていた. この研究を自由境界問題へと拡張するために, 圧縮性粘性流体の自由境界問題研究の第一人者である W. Zajanczkowski ポーランドアカデミィ教授を11月下旬に約2週間招聘し, 集中講義と研究討論を行った. 教授の方法はエネルギィ法であり、ここで開発したR有界性を用いる方法とは全く異なる。 エネルギィ法は強力であるが、境界についての滑らかさや, 解のクラスの滑らかさを多く仮定しなくてはならないという欠点がある. R有界性を用いる方法はエネルギィ法に代わる新しい方法として今後世界的に広がることが期待される.

(3) 非圧縮性粘性流体の運動を記述するNavier-Stokes方程式の1相と2相の場合の自由境界問題の研究を始めた. 今年度は半空間におけるモデル問題に関する, レゾルベント作用素のR-有界性を示した([1],[2]). 方法は解を具体的に表示し, 柴田・清水のフーリエ変換像に関する特徴づけ定理を用いた. 有界領域で表面張力がない場合は柴田・清水による2008年の結果があるが, 本研究では表面張力がある場合を考察している. 来年度以降は非線形問題を研究するが、表面張力がある場合の自由境界問題の先行研究は, 有界領域の場合に Jan Pruess と Gieri Simonettにより2009~2011に行われている. G.Simonett氏を11月中旬に1週間招聘しこの研究についての講義を行っていただき,合わせて研究討論を行い, 来年度以降の研究計画をたてた. また大学院生との共同で層領域での同様の研究を始めた. 研究の一部は本年度の修士論文としてまとめられた.