表題番号:2011B-086 日付:2012/04/13
研究課題ハイブリッドナノ複合材料の材料創製と強度発現機構
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 川田 宏之
研究成果概要
本研究課題では,ハイブリッドナノ複合材料の材料創製に先駆け,ガラス繊維へのカーボンナノチューブ(CNT)の析出による表面改質の確立・評価を目的とした.
CNT析出による表面改質は化学気相成長法(CVD法)を用いて行った.まず,析出温度,析出時間,触媒量,炭素源量をパラメータとした様々な条件下でTガラス繊維へのCNTの析出を行った.その中で析出量に差が出た2条件についてTガラス繊維の機械的性質の変化および樹脂中に埋蔵した場合の界面接着性の測定および定量的な評価を行った.また,比較のため未処理のガラス繊維および熱処理のみを施した繊維も同様に試験を行った.
Tガラス繊維の機械的性質についてはCNT析出により引張強度および破断ひずみに約60%の低下がみられた.この原因はCVD法での繊維の加熱および装置からの取り出し時の環境ガスによるものと考えられる.そこで環境ガスを空気から窒素に変更して同様の条件で作製したTガラス繊維の機械的性質を調査した結果,機械的性質の低下が抑制された.
次に,CNTを析出させたTガラス繊維をエポキシ樹脂中に1本埋蔵したモデル試験片を作製し,界面接着性の測定および定量的評価を行った.熱処理のみを施した繊維については界面接着性の低下が確認されたものの,CNTを析出させた2条件については界面接着性の向上が確認された.また,得られた結果から界面せん断強度を算出すると,CNTを析出させた場合,未処理のものと比較して約45%以上の上昇が確認された.これは,CNTの析出したTガラス繊維を樹脂中に埋め込むことでCNTに樹脂が含浸してCNT層を形成するためであると考えられる.この層の弾性率をナノインデンテーション試験により測定した結果,CNT層の弾性率はエポキシ樹脂よりも高いことが明らかとなった.これより,CNT析出繊維の界面接着性の上昇の要因はCNT層形成による繊維周囲の弾性率の変化であることが示唆された.
以上の結果をもとに弾性軸対称モデルを用いて数値計算を行った結果,CNT層の弾性率の増加を考慮した場合,界面せん断強度が上昇することが解析的にも確認された.ただし,本研究で用いたモデルは実際の実験的事実を考慮していない簡素的なモデルであるため,今後はそれらの要素を導入したモデルの構築が課題となると考えられる.