表題番号:2011B-080 日付:2012/04/08
研究課題IT投資成果の定性的・主観的評価と定量的・客観的評価との関係に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 平野 雅章
研究成果概要
我が国におけるIT投資は年間24兆円とも言われ、無視できない規模である。したがって、このIT投資の成果如何ということが国民経済上も大切であるはずだが、現実にはIT投資の成果がきちんと評価されてきていない。IT投資評価では、該当投資案件の影響する範囲や効果のタイムラグの特定が難しいことや、定量的評価が難しい変数もある等の理由から、経済的評価は断念され、しばしばBSC (Balanced Score Card) が用いられている。さらに、「会計的な評価は過去の評価だが、BSCによる評価は将来の評価も含む」「財務的な評価はアクションに繋げることが難しいが、BSCの戦略マップはこれを補う」などと優位性が主張されてきた。しかし、BSCの強みとされるこれらの特性が実際どの程度真実であるか、 通常は客観的に知る方法がなく、宗教的な信仰の問題となりがちな嫌いがある。すなわち、たとえBSCを採用している企業の業績が良くなったとしても、その原因がBSCにあるのか、他にあるのかを論理的・合理的に判定することができない。

本研究課題では、経済産業省による「情報処理実態調査」の個票を用いることにより、サンプル企業によるIT投資のBSC評価と実際の財務的経営成果を比較して、BSC評価の妥当性を評価するとともに、BSC評価の特性・使用上の留意点などを明らかにすることを目的とした。

研究を通して、成果として以下のような知見が得られた。
(1)BSCによる評価は、前期および今期の経営成果実績を強く反映する。すなわち、前期および今期の業績がよいと、IT投資の効果があったと評価する。他方、2期前になると、BSC評価に影響を与えない。また、次期の見込みも影響を与えない。
(2)「業績」と「業務」に関する尺度に比較すると、「顧客」と「学習(または成長}」に関する尺度と実際の経営成果とのリンクは弱い。
(3) 単に「効果があったか」聞くよりも、まず「効果を狙ったか」を聞き、それから「実際に効果があったか」聞く方が、財務的な経営成果とのリンクが強い。この差は、特に「顧客」に関する尺度に大きい。
(4)2期前から前期に掛けて財務的業績実態が改善していると、今期のIT投資の効果の評価に幾分反映される。
(5)前期から今期へ財務的業績実態が悪化した場合、今期から次期への財務的業績見込みが悪化している場合に、今期のIT投資効果の評価が高くなる。

予備的な研究成果は既に公表しているが、これまでの研究成果に、
(1)何故これらのような傾向が見られるのか、最近の行動経済学の成果を加味した考察
(2)BSCを有効に使うためには、どのようなことに留意すべきか
を加えて、秋までに最終報告する計画である。