表題番号:2011B-065 日付:2012/04/03
研究課題Nd同位体比による温室時代の海洋循環:表層水記録から失われた深層水記録を読み解く
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助手 守屋 和佳
研究成果概要
本研究では,北海道に分布する白亜系から得られる魚歯化石のネオジム同位体比 (143Nd/144Nd)記録の変動史を解析する.これにより,白亜紀に唯一の大洋であったにもかかわらず,未だに海洋の熱塩循環の詳細については明らかになっていない南北太平洋における海洋表層循環系の変遷を明らかにする.また,白亜紀中期までの太平洋には,汎世界的な分布を持つ海棲動物が分布していたにもかかわらず,白亜紀後期には北太平洋域に独自の海棲動物区が成立することから,この間に海洋 循環の大変革があったと推測できる,そこで,特にこの海棲動物区の変革が起きるおよそ 8千 5百万年前 に着目し,白亜紀の海洋循環の変革と当時の生物多様性変動の関係の解明を最終目標とする.
本年度は北海道に分布する蝦夷層群のなかでも,チューロニアン期~カンパニアン期(約9000万年前~8000万年前)を対象として予察的な解析を行った.蝦夷層群から泥質堆積物試料を採取し,それらを分解・洗浄した後,その残渣から有孔虫化石や魚歯化石を抽出した.泥質堆積物は約30地点(30層準)から採取し,大局的な層位学的な変化を追跡することを目的とした.採取された魚歯化石は,フランス,ブルゴーニュ大学のPucéat博士と共同で,ブルゴーニュ大学において分析した.
解析の結果,チューロニアン期~コニアシアン期の後期(約9000万年前~8700万年前)においては,Nd同位体比はやや高い値を示すのに対し,コニアシアン期後期からカンパニアン期にかけてはNd同位体比が低くなることが明らかになった.今回の分析に用いた魚歯化石は水柱中の中~底層付近に棲息するグループであるが,試料を採取した地点の古水深は400m以浅と考えられることから,得られたNd同位体比は,白亜紀の北西太平洋の水柱における亜表層~上部中層の情報を示していると考えられる.
すなわち,本研究から,白亜紀後期の北西太平洋の海洋表層~亜表層水のソースの転換が起きていたことが推測される.