表題番号:2011B-053 日付:2012/04/04
研究課題離散群上の有界関数空間における幾何学的群論の新展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 松崎 克彦
研究成果概要
 群論における Hopf の問題は,群の自己全射準同型が単射となる条件を問い,co-Hopf 問題は自己単射準同型が全射となる条件と問うている.本研究課題では自己共役に関する co-Hopf 問題について考察した.双曲空間に作用する等長変換群の離散部分群(クライン群)に関して既に得られていた結果を,より一般にグロモフ双曲空間の等長変換からなる離散群に対して拡張した.証明には双曲空間の無限遠境界の極限集合上の群作用で不変な擬等角測度を用いた.このような擬等角測度は Coornaert により導入されたもので,クライン群に関する Patterson-Sullivan 測度の一般化と考えられる.研究ではまず,Patterson-Sullivan 測度について成立していた結果を擬等角不変測度についても拡張することからはじめた.とくに群作用のエルゴード性と擬等角不変測度の一意性についての結果を整理した.さらに群に対して定義されるポアンカレ級数が収束指数次元において発散する場合(発散型),このような擬等角不変測度の強い意味での一意性が成り立つことを示せたことが議論の大きな展開を可能にした.証明の方法は Tukia のクライン群に関する同様の結果の証明に習い,発散型であれば conical な極限集合上で擬等角不変測度が正の測度をもつことを示した.
 応用として次の2点が挙げられる.双曲群はそのケーリーグラフがグロモフ双曲空間となる群であり,上記の議論を直接適用できる.したがって双曲群の自己共役に関する co-Hopf 問題について新たな知見を加えることができる.別の応用としては,上記の証明の過程でしめされた次の命題の意義を考えることがある.「グロモフ双曲空間の等長変換からなる離散群が発散型であるとき,それを正規部分群として含む離散群もまた発散型で収束指数も一致する.」この命題は,自由群をはじめとして双曲群一般に対する正規部分群の収束指数に関する研究に大きく寄与する可能性をもつ.