表題番号:2011B-048 日付:2012/04/13
研究課題メダカ造血と連鎖する甲状腺内分泌因子の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 加藤 尚志
(連携研究者) 教育学部 助手 前川 峻
研究成果概要
造血系と内分泌系の研究は,これまでにそれぞれ独立した領域で展開されてきた。その結果,生理調節にいて相互に干渉・交差する分子機序の理解には至っていない。そこで我が国が世界に誇るべきモデル生物である小型魚類メダカを基礎生物学研究所ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)(http://www.nbrp.jp/report/reportProject.jsp?project=medaka)より分与を受け,発生工学的手法を用いてin vivoで赤血球系譜特異的に甲状腺ホルモンの作用を阻害する実験系構築を行うこととした。その実験的手法の確立を目指し,本年度は,赤血球系細胞特異的に蛍光標識したトランスジェニック(Tg)メダカ作出を試みた。

1.EPOR:DsRed Tgの作出
赤血球造血因子エリスロポエチンの受容体(EPOR)遺伝子の5’上流転写調節領域(約4 kbp)を,メダカゲノムDNAから単離した。次いで単離遺伝子下流に,蛍光蛋白質DsRed遺伝子を含むベクターを構築した。本ベクターにはホーミングメガヌクレアーゼI-SceI認識配列を含んでおり,高効率的にゲノム内に組み込まれるように設計した。本遺伝子を,一細胞期のメダカ受精卵に,I-SceI酵素とともに共注入した。結果,蛍光顕微鏡観察により,受精後5日目には,血流を循環するDsRed陽性血球が多数確認された。

2.GATA1:EGFP Tgの作出
GATA1遺伝子座を含むBACクローン(基礎生物学研究所NBRPより譲渡)を用いて,大腸菌(SW102株, National Cancer Instituteより提供)内での相同組換え法によりGATA1遺伝子5’転写調節領域10 kbpを蛍光蛋白質EGFP遺伝子の上流に組み込んだ。本方法は,従来方と比較し,広領域の遺伝子を短期間でクローニング可能である。本遺伝子を1と同様にメダカ受精卵に微小注入した。結果,蛍光顕微鏡観察により受精後1日目の腹部血統領域にEGFP陽性細胞を確認できた。

各Tgメダカは現在,世代交代により系統化を進めている。今後は上記Tgメダカ造血巣に存在す各赤血球系譜細胞をフローサイトメトリー法による同定・単離法の確立を進める。また,EPORやGATA1遺伝子の転写調節領域下流に甲状腺ホルモン受容体のドミナントネガティブ領域を組み込み,赤血球系細胞特異的に甲状腺ホルモンの効果を阻害するTgメダカの作出も合わせて行う予定である。