表題番号:2011B-047
日付:2012/04/13
研究課題両生類血球の起源と造血組織動態の解明
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
---|---|---|---|
(代表者) | 教育・総合科学学術院 | 教授 | 加藤 尚志 |
(連携研究者) | 教育学部 | 助手 | 前川峻 |
- 研究成果概要
- 脊椎動物の調節系の多様性と普遍性の研究が各種進められる中で,動物の血球産生調節の仕組みの統合的理解は進んでいない。膨大な種を含む脊椎動物のうち,赤血球とヘモグロビンとを持たない生物は,ウナギの幼生と,酸素を血中に溶存させる南極のコオリウオ科魚類数種だけとされる(シュミット=ニールセン著,動物生理学~環境への適応,1997;沼田・中嶋監訳:東大出版,2007)。造血は脊椎動物共通の基幹系であり,種間で比較すれば,調節系の普遍性や多様性を論ずる良い題材である。本研究では,両生類アフリカツメガエルを対象に,造血発生や成体血球産生の機序の詳細な検討とともに,組織形態解析に立脚した造血解析に取り組んだ。
アフリカツメガエル幼生(オタマジャクシ)では,赤血球造血発生に関して組織観察と遺伝子発現を検討した。発生段階NF52の組織をHE染色したところ肝臓の組織内に赤血球を認めた。NF56,60,66および成体の各組織の血球関連遺伝子の発現を解析したところ,NF56では赤血球分化に関わるgata-1・gata-2・エリスロポエチン(EPO)・EPO受容体・β-グロビンが肝臓・腎臓で発現していた。変態期の組織リモデリングの伴うNF60では腎臓でのgata-2・EPO・β-グロビンの発現が消失し,脾臓でこれらの遺伝子が発現するようになることから腎臓から脾臓へ赤血球造血巣の移行が示唆された。一方,これまでの我々の検討の結果,アフリカツメガエル成体の肝臓には,エリスロポエチン受容体発現細胞の約90%が類洞内に局在していることが判明している。そこでさらに成体肝臓における解析を進めた。o-dianisidine染色および透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、ヘモグロビン含有赤芽球の局在を調べ、赤血球造血の微小環境を形成しうる接着分子vcam1, integrin alpha4, alpha5, beta1, macrophage erythroblast attacher(maea) 発現細胞との位置関係を明らかにした。また,栓球系の出現(前駆細胞からの増殖と分化)について,詳細な解析をした。ヒト,マウスと類似配列をもつTPO受容体(c-Mpl)を介した増殖分化をおこなう栓球前駆細胞が肝臓に存在したことから,栓球造血におけるTPO/c-Mpl系の生物種間の保存と生物活性の交叉を考察した。白血球系については,アフリカツメガエル顆粒球コロニー刺激因子(xlG-CSF)とその受容体G-CSFR(xlG-CSFR)の相同遺伝子配列を同定し、生物活性を検討した。xlG-CSF遺伝子をヒト胎児腎臓細胞株HEK293Tに導入し、組換え蛋白質を得た。一方、xlG-CSFR遺伝子を恒常発現するマウスFDC-P2細胞を得て、組換えxlG-CSFを本細胞株に添加したところ,明らかな増殖活性を示した。さらに、造血器由来細胞を組換えxlG-CSF存在下で培養し、出現する血球細胞中の好中球数を調べ,作用特異性を確認した。幼生,成体とも,肝臓で赤血球造血の直接証拠を獲得しつつあるが,それらの造血組織環境に,細胞接着因子ESAMが関与する可能性がある,ESAMは、動物44 種で報告されたが、アフリカツメガエルでは報告がない。近縁種ネッタイツメガエルESAM の遺伝子配列情報を利用して、アフリカツメガエルESAM の成熟蛋白質をコードする遺伝子配列を決定した。ヒトやメダカなどの一次構造と比較すると、塩基、アミノ酸それぞれの配列の一致率は低いが、機能領域、Cys 残基、N 結合型糖鎖の位置は保存されていた。造血巣である肝臓、脾臓、貧血成体の末梢血で発現することから、アフリカツメガエルのESAM 分子の発現は造血動態と関連することが示唆された。