表題番号:2011B-044 日付:2012/04/11
研究課題地理教育の系統化のための基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 池 俊介
研究成果概要
本研究では、日本における系統的な地理教育カリキュラム構築の基礎的作業として、地理教育の長い伝統をもつポルトガルの義務教育における地理教育の学習目標・内容・方法の特色とその系統性について明らかにすることを目的とした。特に今年度の研究では、日本の中学校に相当する基礎教育の第7~9学年の地理教育の内容を中心に考察した。日本の学習指導要領に相当するポルトガル教育省が刊行するCurriculo Nacional do Ensino Basicoでは、「地理的能力をもつ市民」の育成が基礎教育における一連の地理学習の最終的な目的であるとされている。「地理的能力をもつ市民」には、事実を空間的に可視化し相互に関連づけること、自らが生活する環境を具体的に描写すること、多様なスケールの地図を利用すること、他の地域と比較し地球表面を理解すること、などの能力が具体的に求められている。また、こうした地理的能力は、基礎教育全体を通じて育成されるべき一般的な能力の形成にも貢献するものとされており、たとえば地図化などの地理的スキルや、自然科学から人文・社会科学にわたる多様な知識を動員して問題解決を図る地理学習独特の探究の方法が、他の教科の学習活動においても大いに役立つことが強調されている。とくに、地理学習が市民教育(環境教育・開発教育などを含む)を基礎から支える学習として位置づけられている点は特質に値する。こうした基礎教育における地理学習の実態の理解を深めるため、リスボン市内にある基礎教育第5~9学年を対象とする私立学校(日本の小学校高学年と中学校の一貫校)の1つであるEscola EB 2+3 Eugenio dos Santosの第9学年の授業を参観した。この授業は、日本の中学校に相当する基礎教育第3期の「地理」に設定されている6つのテーマのうち「発展のコントラスト」を扱ったもので、具体的にはポルトガル(自国)とEUの先進国であるベルギーの比較を題材としていた。第9学年では、「地理」は週に90分授業が2コマ、45分授業が1コマ配当されているが、本授業は90分の授業であった。1授業時間が長く、また1学級の生徒数が18名と少数であるため、まず教師がポルトガル・ベルギーの社会・経済に関する統計データや文書資料を配布し、個々の生徒が①最近6年間のポルトガルの発展状況、②ベルギーの社会・経済的な特色、③ポルトガルとベルギーとの相違点をまとめる、という調べ学習主体の授業が展開された。生徒たちは、教師に資料の見方等を質問しながら、90分間集中して課題に取り組んでおり、こうした授業形態に十分に適合している様子が窺われた。重要な地理的知識について単に教師が講義するのではなく、課題を探究するプロセスを重視した地理授業は、日本の中学校の授業の改善を図る上でも大いに参考になるものと思われる。