表題番号:2011B-038 日付:2012/04/09
研究課題北海道旧石器集団の遊動領域と石材利用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 長崎 潤一
研究成果概要
 北海道の旧石器集団の遊動領域の解明に当たって、2つの方向からのアプローチがある。ひとつは石器利用石材の産地推定、遺跡内での石材消費状況、地域での石材組成などを検討する石材研究である。二つ目は石器の型式学的方法によるもので、これは従来から長年に渡って実施されてきた研究方法である。本研究ではふたつの方法を融合させつつ、北海道における地域集団の石材採取活動と年間スケジュール、遺跡での考古資料とそこから復元される行動、遊動ルートの解明などを目的として研究を進めている。
 特に調査の進んでいない赤井川産黒曜石に注目して研究を行った。①赤井川産黒曜石使用の実態を知るため、産地分析の行われている旧石器遺跡の報告書から赤井川産黒曜石の使用状況、他産地石材との産地組成、石器群の内容などを調査した。②赤井川産黒曜石の近傍地域である倶知安町で2009年から発掘調査を行っている峠下遺跡の石器群の解明。③現生狩猟採集民の原材料獲得についての民族誌の収集。
 ①の研究については黒曜石産地分析を実施した石器群の多さから、千歳市~苫小牧市の旧石器遺跡を対象とすることになった。当該地域では近年旧石器資料の集積が進んでいる。細石刃関連では従来多く見つかっていた忍路子型細石刃核石器群だけでなく広郷型細石刃核石器群など従来当該地域では発見されていなかった石器群も見つかっている。細石刃の各段階で当該地域が利用されていたことが分かってきた。赤井川産黒曜石が各段階でもっともよく利用されているが、札滑型細石刃核石器群では頁岩利用が顕著であり、石器群によって石材利用に差がある可能性が認められた。②の研究では、峠下台地の地考古学的検討が行われ、羊蹄山の山体崩壊に伴う流れ山が遺跡堆積層内に顕著に認められ台地の形成年代推定の材料となることが分かった。また2011年度の発掘調査によって赤井川産黒曜石を使用する細石刃石器群が峠下台地の全域に広がることが確認されるなどの成果があった。③の研究ではまだ十分に民族誌資料を集めたとは言えず、考古資料に適用可能な段階にはならなかった。
 峠下型細石刃核石器群については新旧2群に分割する考えもあり、当該集団の遊動領域を解明するに至ってはいないが、。赤井川産黒曜石、道南珪質頁岩と両者の消費状況を各遺跡で解明することが遊動領域研究に重要であろう。