表題番号:2011B-036 日付:2014/04/10
研究課題日本近代における「歴史小説・時代小説」の成立と展開の総合的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 敏夫
研究成果概要
小説の一大ジャンルとして多くの書き手と膨大な読者を有する歴史・時代小説は、1990年代以降、従来にない規模のブームをひきおこしている。これは、1950年代後半の「剣豪小説」ブーム、1960年前後の「忍者・忍法小説」ブーム、そして1960年代にはじまる「歴史小説」ブームなどに比べてもいっそう大きなブームである。
しかし、このようなブームを巻き起こしてきた歴史・時代小説については、学術的かつ総合的な研究はほとんどなされてこず、その結果、ブームについてはもとより時代小説について持続的に考察しうる場および組織(例えば「歴史・時代小説」学会)が形成されなかった。時代小説作家と「時代小説」論を研究課題にする研究者はきわめて少数で、これは対象を「大衆文学(現在では「エンタテインメント」とよばれる)」にひろげても変わらない。
従来、歴史・時代小説研究は、故尾崎秀樹を中心とした大衆文学研究会にあつまる在野の研究者と評論家の手にゆだねられてきた。「大衆文学」を掲げるがその大半は歴史・時代小説の歴史と理論の提示である尾崎秀樹の『大衆文学』(1964)や『大衆文学の歴史 上・下』(1989)は、依然として研究に欠かせない。大衆文学研究会による調査・評論、またフランスの研究者セシル・サカイによる概論『日本の大衆文学』(1997)や評論家縄田一男の『武蔵』(2002)、さらには歴史学者成田龍一の『大菩薩峠論』(2006)などを参照しつつ、時代小説の持続的で包括的な研究をはじめる必要がある。その研究対象としては個々の作家作品研究とともに、歴史・時代小説の意義が凝縮されるブームの研究が重要である。これなくしては、純文学偏重の続く日本現代文学研究および文学史研究は、大きな欠落を放置せざるをえないだろう。
今回の研究には三本の柱がある。
一は、戦後の歴史・時代小説ブームの概観。とくに1990年代に始まる「市井もの」の意義をたしかめる。
二は、勉誠出版での企画『座談会 歴史・時代小説――成立から現在まで』の準備作業。
三は、ここ6年にわたって続けている最新刊の時代小説の批評である。雑誌「グラフィケーション」(富士ゼロックス発行)を主 に、多くの雑誌・週刊誌・新聞で展開中である。