表題番号:2011B-022
日付:2012/04/13
研究課題将来債権譲渡の法的構造・将来債権譲渡の効力の及ぶ範囲
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 法学学術院 | 助教 | 白石 大 |
- 研究成果概要
- 本課題は,将来債権譲渡の法的構造,具体的には(1)債権の発生時期,(2)将来債権譲渡の対抗の意義,についての解明を目標としており,これを通じて,近年の実務において急速に普及が進みながらいまだ法的に不明確な点が多い同制度に,法的安定性をもたらすことを企図するものである。
2011年度は,上記目標のうち(1)債権の発生時期に関する研究を行った。何が「将来債権」に該当するかを明らかにすることは,将来債権譲渡の効力の限界を探るうえで必須であり,この研究は本課題の主要部分をなすものである。債権法における基礎的なテーマでありながら,これまでわが国ではまとまった研究の対象となってこなかったこの問題に取り組むため,私はフランス法の議論を参照した。その理由は,近年フランスで将来債権譲渡と譲渡人の倒産手続との関係についての破毀院判例が立て続けに出され,これを契機に債権の発生時期に関する検討が進み,この論点に関して多くの議論の蓄積がみられるからである。2010年度に,フランス債務法の体系書,学位論文,雑誌論文,シンポジウム記事のうち,債権の発生時期につき論じるものを広く渉猟してまとめる作業を行っていたので,2011年度は,これに加えてわが国の判例・学説の分析を行ったうえで,その成果を執筆する作業に注力した。
この研究から得られた示唆は多いが,そのうち何点かを以下に示す。第1に,フランスでは意思自治の伝統が強く,このため賃貸借や雇用等の継続的履行契約においても,契約締結時に全期間分の賃料債権・賃金債権が一斉に発生すると考える見解が有力であること。第2に,わが国では賃料債権・賃金債権を基本債権と支分債権に分けて把握するのが一般であるが,そこでいう「基本債権」の内実が何であるかについては明らかではないのに対して,フランスではこれを契約の拘束力と結びつけて説明する見解がみられること。第3に,わが国では債権の発生時期に関する議論を法解釈に反映させることはほとんど行われていないのに対して,フランスでは,賃料債権の発生時期を将来債権譲渡の効力の及ぶ範囲についての解釈に直結させて論じる傾向が強いこと。第4に,債権の発生時期に関する検討を通じて,債権とは何か,債権と契約との関係はいかなるものか等という,より根源的な問いに関する議論が深められてきたこと。
以上の成果をまとめた「契約債権の発生時期に関する一考察(仮題,約22万字)」と題する論文を,2012年度以降に早稲田法学に連載したいと考えている。