表題番号:2011B-021 日付:2012/05/06
研究課題フランスにおける会社役員の報酬規制
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 鳥山 恭一
研究成果概要
 株式会社に関する法制度は、フランスで革命後の1807年に制定された商法典がはじめて規定した。本研究はこの1807年の商法典以来現在に至るまでのフランスの株式会社法制のもとで、会社役員の報酬に関してどのような実務がなされ、それに関してどのような裁判例が蓄積して判例法理が形成されるに至り、法令規定が形成されてきているのかを検討し、それらを総合的に考察しようとするものである。
 取締役の報酬に関しては、わが国では1890(明治23)年に制定された旧商法において、取締役の報酬は株主総会の決議にもとづき支給する旨の現在の規定と同趣旨の規定がおかれていた。しかし、フランスでは、株式会社に関する法制度はすでに1807年の商法典において定められていたにもかかわらず、取締役の報酬に関して法律規定が定められたのは1943年になってからである。しかしそこでも、取締役が取締役会構成員として受領する報酬が規定の対象になっていたにすぎず、取締役が取締役会において業務執行者に選任された場合にその業務執行者として受領する報酬はその規定の対象にされておらず、そのために多くの裁判例が後者の報酬に関して出されることになった。そうした後者の報酬に関しては1966年の改正によってはじめて規定がおかれることになった。しかし、会社経営者の退任後に会社が支払う退職慰労金に関しては、1966年の改正による規定も明文では対象にしておらず、そうした退職慰労金の扱いに関してさらに多くの裁判例が出されている。近年ではそうした会社経営者の退職の際の高額の支払い(Parachute doré, Golden Parachute)が問題にされたために、業務執行者が退任する際の支払いは2005年および2007年の改正によって明文で規制の対象にされている。
 以上のように1807年に定められたフランスの株式会社法制のもとで会社役員の報酬に関する法律規定は1943年、1966年、そして2005年と2007年の改正によって定められてきているのであり、会社役員の報酬に関する法律規定はいまなお形成の過程にあるといってよい。本研究では、そうした法律規定の形成の過程をその前提となる実務の運用および判例法理の変遷とあわせて総合的に検討した。