表題番号:2011B-016 日付:2012/04/14
研究課題言語・ジェスチャー・環境の交差をみる:石垣島の相互行為の言語人類学的分析より
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 准教授 武黒 麻紀子
研究成果概要
研究者は、これまでの石垣島の空間表現の調査より、垣市街地の話者が空間を示すときに、海から陸へのゆるやかな坂を反映した「あがる・さがる」という表現を使うことや「東西南北」という地球環境主体の言語表現がジェスチャーと共に方位に正確に現れる傾向があること、聞き手が石垣島の地理に詳しいかといった「その場・その時」に応じて異なる空間指示枠を使い分けていることを明らかにしてきた。今年度は、言語と空間認知に関するLevinson (2003) などの研究を再度検討した上で、沖縄県石垣島でのフィールドワークを12月に行った。フィールドワークでは、主に、石垣島話者が2つの空間指示枠(相対・絶対指示枠)をコードスイッチするデータを中心に集めた。そして、話し手が好んで選択する空間指示枠は、コンテクスト特に聞き手の出身地や理解度に応じて瞬時に変化するものであることを分析した。すると、ある空間指示枠の選択は、空間の言及指示や説明にとどまらず、グループ標識や参与者のアイデンティティをも指標することも明らかになってきた。言語の指標的機能に注目して空間指示枠の選択を分析してみると、空間指示枠を使うということは単に空間を描写するという命題の表現にとどまらず、ときに地域への帰属を示すグループ標識として、またときに地域の習慣や地理に長けているかどうかといった共同体への溶け込み具合やそこでのアイデンティティ標識として機能していた。ある空間指示枠の使用が場所や方角を指し示すだけではなく、コンテクスト(グループ標識や地元地理に詳しい参与者の背景など)をも同時に指標していた。相互行為にみられる空間指示枠の使用が、話し手と聞き手(あるいは相互行為に参加する参与者)による間主観的な言語実践であると考察し、2011年12月の『場』のワークショップで発表した。
今年度の研究より、空間指示枠の使用も、相互行為で刻々と変化していく「今・ここ」で意味をもっていく言語の指標的意味や指標的基盤とのかかわりから議論する必然性が明らかになってきた。今後も言語・コミュニケーションにおける間主観性と指標性の結びつきについて言語人類学的見地からの議論を続けていく予定である。それにより、人間が言語を使って何をしているのか、他者とどのようにかかわろうとしているのかといった疑問に答えることにつながっていくと考える。