表題番号:2011B-002 日付:2012/04/13
研究課題ドイツ語心態詞の状況依存性、意味・機能、音声的特徴との関わりについての実証的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 生駒 美喜
(連携研究者) 学習院大学文学部 教授 岡本 順治
(連携研究者) 獨協大学外国語学部 教授 アンゲリカ ヴェルナー
(連携研究者) 京都外国語短期大学 講師 筒井 友弥
研究成果概要
2011年度前半は研究代表者、研究分担者および研究協力者がデータ分析の準備として、本研究テーマと関わる音声学(主として韻律的特徴)、意味論、語用論、認知言語学の領域における先行研究の文献収集を主として国内にて行った。2011年8月に京都で行われた日本独文学会語学ゼミナールの日程に合わせて、研究代表者、研究分担者および研究協力者との打ち合わせを行い、文献収集の進捗状況を確認し、今後行うデータ収集の計画について話し合った。また、研究代表者は前年度までの科学研究費補助金プロジェクトで収集した心態詞schonの発話音声データの分析を引き続き進めた。
2011年度後半は、研究代表者が研究協力者(学習院大学博士後期課程:牛山さおり)と共同で、これまでに収集した心態詞schonの発話データを用いて知覚実験を行った。この知覚実験は、「確認」「反論」「限定つき肯定」「時間(副詞)」「驚き」「確認」など、6つの異なる意図を2つずつ組み合わせ、ドイツ語母語話者が状況のない発話文のみを聴いて2つの異なる意図を正しく聞き分けることができるか、という目的で行うものである。まず、その準備として音声分析ソフトPraat上で音声を聴き、回答がテキストファイルとして保存される仕組みの知覚実験用プログラムを作成した。知覚実験準備に際しては、研究代表者は研究協力者と数回にわたり打ち合わせを行い、共同で準備作業を行った。この知覚実験を2月上旬にドイツ・ハレ大学の音声学研究所においてUrsula Hirschfeld教授の協力のもと、研究代表者が研究協力者と共に実施した。その際、ドイツ語母語話者(ハレ大学の大学生)計20名に被験者として協力をお願いした。ハレ大学のPCの他に、2台のノートパソコンを購入し、できるだけ多くの被験者が一度に知覚実験を行えるように準備した。知覚実験の結果、ドイツ語母語話者はほぼすべての発話文について、平均85%という高い割合で正しく聞き分けていることが分かった。さらにこの結果をこれまでに行った音響分析結果とも比較検討し、現在考察を進めている。その成果については、2012年5月に開催される日本独文学会春季研究発表会におけるシンポジウムにて発表する予定である。
研究協力者(前出)は、ドイツ語心態詞におけるリズムの特徴を調べるため、研究代表者がこれまでに行ったdennに関する発話実験も参考にしながら、異なるリズムの特徴が現れやすいと推測される複数のdennの短文を作成した。これらの短文について、研究分担者(獨協大学教授:アンゲリカ・ヴェルナー)が発話したものを録音し、音響分析を行った。その結果、dennの入らない短文の場合には、発話意図による顕著なリズムの違いは見られなかった。しかしdennが入る短文では、dennが文末の直前の位置にあり、「繰り返し」の意図でストレスを置いて発話された場合にのみ、独自性のあるリズムの構造が確認された。この場合のdennにストレスが置かれないのは、直後に来る語との「強勢衝突」を避けているという可能性が示唆された。
研究分担者(学習院大学教授:岡本順治)は、日本独文学会シンポジウムにて発表した「間主観的コミュニケーションに対する波動モデル」をもとに、心態詞の間主観性を実証するため、発話産出実験を行った。日本語の終助詞もドイツ語の心態詞と同様に対人機能を担っていると考えられるため、ドイツ語心態詞に加えて日本語の終助詞の発話も対象とし、ドイツ語母語話者5名、日本語母語話者12名を被験者として実験を行った。新たに購入したPC上に写された物を部分から全体に到る過程を5段階に分けたスライドに対してコメントするという課題で、第一段階ではアシスタントが同席する形で、第二段階ではアシスタントが同席しない形で行った。その結果、アシスタントが同席しない形の方が心態詞・終助詞のいずれも出現率がより低いことが確認された。心態詞の出現数は全体でもかなり低かったが、終助詞はアシスタントが同席しない形でも出現数が多く、心態詞と終助詞には機能面での顕著な違いがあることが示唆された。一連の実験結果について、2012年8月の世界認知科学会においてポスター発表を行う予定である。