表題番号:2011A-976 日付:2012/03/27
研究課題震災復興時における学生ボランティアの役割と地域活性化の連携に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 平山郁夫記念ボランティアセンター 助教 加藤 基樹
研究成果概要
本特定課題研究においては、学生ボランティアを派遣する大学の役割について聞き取り調査をもとに考察した。報告者が所属する早稲田大学の事例を含めると以下のようになる。

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)
早稲田大学では、平山郁夫記念ボランティアセンターが中心となり、被災地へ復興支援のバスを用意して、2012年3月末までにのべ二千人以上の学生、教職員を被災地に送り込んだ。
ボランティア活動の内容は、震災後に着任したコーディネーターが現地のニーズを見聞きし、同センターの事務長と協議をした上で現地との調整がなされる。そしてWAVOCのウェブサイトから参加者が募集されるのである。日程は金曜日の夜に大学を出発し、日曜日に帰京する0泊3日、ないし、1泊3日が中心であり、これにより参加学生も授業を休まずにボランティアに参加することができた。
費用は年間でおよそ2,500万円が必要となり、早稲田大学サポーターズクラブほか、寄附によって賄ってきた。これは2012年度も同水準の予算で実施される予定である。
これらの成果は、加藤編著(2011)『0泊3日の支援からの出発』(早稲田大学出版部)、岩井編著(2012)『学生のパワーを被災地へ!』(早稲田大学出版部)にそれぞれまとめられているが、他方で問題点も明らかになっている。
1つは学生の意識の問題である。WAVOCは本来、教育機関であり学生の社会貢献、ボランティアを通した成長に着目しているため、ボランティア活動にのぞむ際の事前の勉強会や事後の報告会を重視してきた。しかし今回の震災支援の緊急性に鑑み、学生ボランティアの質より量を優先することがWAVOC所長により決定されたため、ボランティアの質の面が担保できなかったという側面がある。2011年度の後半からボランティアニーズが変化してきた中で、今後、大学のボランティアセンターとしてどれだけ質の面を重視できるかが課題となろう。
また、運営体制にも大きな課題が見られた。WAVOCが学生ボランティア派遣の担当部署となったにもかかわらず、人員の補充はコーディネーターのみであった。つまり、コーディネーターが現地のニーズを踏まえてWAVOCの「仕事を増やす」ことが任務だったにもかかわらず、その事務を処理する人員が補充されなかったために、WAVOCの事務処理が完全にパンクしてしまったのである。
そこで学内から広く職員が募集されて半年任期の支援チームが結成され、大きな役割を果たしてきたが、それでも本属との兼務であったため根本的な解決には至らなかった。今後も復興支援が続くのであり、システムの構築が急務である。
幸か不幸かコーディネーターの腕が確かでWAVOCの仕事量を大幅に増やし、しかも、十分な予算が確保できたことにより上記のような問題点が明らかになった。震災ボランティアについては、事務処理をする人員の確保が重要であることが実感された事例である。

鹿児島大学ボランティア支援センター
鹿児島大学ボランティア支援センターは2008年に設立された国立大学で唯一の常設ボランティアセンターである。大学の理事が所長をつとめ、学生生活課課長代理が実質的に事務の責任者となっており、他に1名の専任職員がいる。学生のボランティア保険の加入料負担、ボランティア情報のメール発信、テント、発電機、トランシーバー、ゴーグルなどの用具の貸し出しなどをおこなっている。また、学園祭期間中の震災ボランティア展示・募金活動や共通教育科目「ボランティア論」で震災ボランティアに従事した学生が講演を行った。特徴的なのは、震災ボランティアに参加した学生に対して、後から交通費の一部(片道分程度)を援助するという制度を持っていた点である。

福岡大学学生部学生課
福岡大学の医学部は震災の早い時期から医療関係者を被災地に派遣したが、大学としても学生ボランティアを被災地に派遣している。これは同大学の一人の教員が研究の関係で被災地に土地勘があり、担当部署である学生課とともに調整を行って、大学の費用で学生を派遣したものである。学生100名を飛行機で羽田空港に向かい、3台のバスに分かれてそれぞれ4日間の活動を行った。
早稲田大学の派遣と大きく違うところは、学生をよく教育、訓練した上で派遣したことである。派遣者全員が募集説明会、事前セミナーに続いて、6回の事前研修会に参加し、現地の説明だけでなく専門家の講話やグループワークによって学生が訓練されている。述べたように早稲田大学ではやむを得ず、派遣学生の教育的効果と質的な向上をあきらめて、多くの人数を送ることを優先したのであるが、これが大きく異なる点であるといってよい。

摂南大学教務部教務課
ボランティア活動に単位を与えてもよいという文部科学省からの通達は各大学で大きな議論になったが、摂南大学では震災ボランティアへの参加を単位認定する制度を採用した。
同大学では2011年度の夏期休業期間から後期にわたる2単位の教養特別講座「ボランティア活動」を設置した。これは学内での事前学習と現地での活動(70時間)、事後報告によって単位認定するものであり、誓約書、活動計画書、活動日誌、参加証明書の提出が義務づけられているものである。

神戸大学ボランティア支援センター
神戸大学は継続的に学生ボランティアを派遣したが、その中心となったのは学生支援GP「地域に根ざし人に学ぶ共生的人間力」による学生ボランティア支援室であった。早稲田大学の作業が泥かきなど肉体労働中心であったのに対して、同大学ではいち早く遠野まごころネットと連携して現地に入って様々な活動を行い仮設住宅も訪問していた。震災から間もない時期での被災者との接触については検証が必要となろう。
また、一定の条件を満たせば授業の欠席を2週間まで公休扱いにする点も特徴的であり、これは多くの大学において個別の教員に対して配慮を求めた点と大きく異なっている。
なお、この聞き取り調査がもとになって、報告者は同大学の主催するパネルディスカッション「学生ボランティア支援の可能性―神戸と東北からの展望」にパネリストとして招かれた。その様子は同大学の報告書に掲載されている。

以上のように、震災復興時における学生ボランティアの役割とその形態は、大学の支援のあり方によって大きく左右されている。経済的手段が弱い学生に対して、交通手段と費用を負担して学生を引率する形や、震災ボランティアに参加した学生の費用の一部を負担する形の確かに有効であったと言えよう。
また、学生の震災ボランティア活動を単位として認めるもの、ボランティア参加期間の授業の欠席に考慮をするもの、ボランティア活動を授業として設置するものは、大学の震災支援と教育的配慮の間で揺れ動く課題であるが、これからさらに議論を深めていく必要があるだろう。