表題番号:2011A-943
日付:2012/04/13
研究課題映画というメディアを通してポピュリズムについて何を学ぶことができるのか?
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 国際学術院 | 教授 | 吉本 光宏 |
- 研究成果概要
- 20世紀を代表するマスカルチャーであり、21世紀に入っても増々大きな社会的影響力を持ち続けている映画、なかでも現代ハリウッド映画が、ポピュリズムとどのように関わり合いになってきたのかを理論的・歴史的観点から吟味することが、本研究の目的である。研究期間中、エルネスト・ラクラウのOn Populist Reason他の英語文献および日本語の文献を精読し、ポピュリズム概念の再検討に努めた。また予算の許す範囲内で必要な映像資料を収集し、詳細なテキスト分析に着手した。具体的には、『アンストッパブル』(トニー・スコット監督、2010年)や『インセプション』(クリストファー・ノーラン監督、2010年)のような現代ハリウッド映画作品において、群衆(crowd)や大衆(mass)、あるいは群(multitude)がどのように形象化されているのか、そしてそうした集団性のイメージとポピュリズム的な主体性のあいだにどのような関連性が存在するのかどうかを考察した。研究結果の一部は、第45回アメリカ学会年次大会(2011年6月5日、東京大学駒場キャンパス)でおこなった口頭発表「陰謀論からポピュリズムへ」のなかに反映されている。また本研究の出発点とも見なすことができる単著書『陰謀のスペクタクル』(以文社)の刊行が、当初の予定の2011年7月から2012年2月に延びたことで、研究成果をふまえて原稿の一部を再構成し、より要旨が明確に伝わるように書き直すことができた。ポピュリズム概念の批判的検討と、映画作品のスタイルや物語的構造のーポピュリズムという主題に焦点を合わせたー分析から、ハリウッド映画のポピュリズム的契機を正確に理解するためには以下の観点からさらに研究を発展させる必要があることが明らかになった。すなわち、(1)ポピュリズムと民主主義のあいだに存在する複雑で矛盾に満ちた関係を正確に解きほぐし、(2)ハリウッド映画作品と「政治的なもの」の関係を歴史をさかのぼって解明する、そして(3)現代ハリウッド映画に特徴的なスタイルや主題、物語的構造は、新自由主義的世界における「政治的なもの」の変容とどのように関係しているのかを分析するという3点である。こうして新たに得られた知見に基づいて研究計画を発展させ、2012年度の科学研究費補助金・基盤研究(C)に応募し、2012年4月に交付の内定を受けた(研究課題「現代ハリウッド映画とショック効果:イメージはネオリベラリズムをどう表象するのか」)。本研究を予備的考察と捉え直した基盤研究(C)の計画に沿って、2012年度から2014年度の3年間さらに研究を進めていく予定である。