表題番号:2011A-925 日付:2013/04/08
研究課題インタビュー調査における「語られなかった語り」の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 助手 桂川 泰典
研究成果概要
本研究は,インタビュー調査中にインフォーマントが認識しながらも語ることのない「言葉にならなかった言葉」を「インタビュー時メタ思考」と名づけ,大学生らに対する質問紙調査によってその実態を調査した。
研究1では関東圏内の大学・専門学校に通う学生78名(男性=38名, 女性=40名)を対象として、予備調査を行った。分析は筆者(臨床心理士)と臨床心理学専攻の大学院生2名の計3名でKJ法に沿って整理,分類を行った。分類の妥当性のチェックを心理学系大学教員1名に依頼し,疑義のついた項目は合議により再分類を行った。その結果、計282項目を収集し,22分類81項目に集約された。22分類のラベル:〈研究への懐疑〉〈研究者への疑問〉〈研究協力失敗不安〉〈伝達意思〉〈プライバシー〉〈妥協・諦め〉〈見返り〉〈他者評価不安〉〈無理解不安〉〈研究者への期待〉〈研究への期待〉〈戦略〉〈嫌悪・防衛〉〈恥じらい・感傷〉〈緊張・抵抗・不安〉〈聞き手を満足させたい〉〈聞き手への配慮〉〈分析されることの不安・嫌悪〉〈混乱〉〈場の適切さ〉〈言語化における問題〉。考察:研究自体への懐疑や疑問,時間をとられることへの嫌悪等,インタビューを受ける際の防衛的な“構え”が多く抽出された。一方で,調査者を満足させたり,上手に伝えることに意識を向ける者も多く,上手く伝わらない時は不安や不満を感じる者と「伝わらなくてもしょうがない」という割り切りの気もちをもつ者等に分けられた。多くの項目において「自己をどのように見せるか」,「他者の目にどのように自分が映るか」といった自己意識特性との関連が示唆された。
研究2では、関東圏内の大学・専門学校に通う学生計417名(男性=212名, 女性=205名)に調査を依頼し、インタビュー時メタ思考の尺度作成と信頼性・妥当性の検討を行った。その結果,〈評価不安〉,〈伝達意思〉,〈情緒的期待〉,〈ストーリー戦略〉,〈言語化困難〉,〈共約不可能性〉,〈社会的意義〉,〈場の適切さ〉の8因子からなる「インタビュー時メタ思考尺度」が作成され,再検査信頼性の確認がなされた。また,「自己意識尺度」を用いた併存的妥当性の検証が行われ,多くの因子で自己意識との関連が示された。一方で〈情緒的期待〉,〈社会的意義〉の2因子は「自己意識尺度」とは関連の低い心理特性であった。続いて,インフォーマントの研究協力動機がインタビュー内容にどのような影響を与えうるかを検討するために,「インタビュー動機を尋ねる独自質問」を作成し「インタビュー時メタ思考」への影響を検討した。その結果,無条件でインタビューに応じる者は調査者へ〈情緒的期待〉を有する傾向があること等が明らかとなった。