表題番号:2011A-924 日付:2012/04/04
研究課題見捨てられスキーマに対する短期的介入がBPDの徴候に及ぼす影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 助手 井合 真海子
研究成果概要
①研究の背景 
近年,境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder: BPD)の治療において有効性が示されている認知行動療法的介入では,「見捨てられスキーマ(見捨てられることに関する考え方)」が治療の対象とされている。また,BPD臨床群ほど重篤ではないが,BPDの特徴を有するBPD周辺群についても,見捨てられスキーマ得点が高いことが明らかとなっている(井合ら,20010)。しかしながら,BPD周辺群を対象として,見捨てられスキーマを介入のターゲットとした実証研究は本邦においては未だ見られない。本研究の準備状況として,井合ら(2010)が,見捨てられスキーマを詳細に測定することを目的として,見捨てられスキーマ尺度を作成し,十分な信頼性・併存的妥当性を確認している。さらに,井合ら(2010)は,見捨てられスキーマが,BPDに特徴的な徴候に対して影響を与えているというメカニズムを示唆している。

②研究目的 
本研究においては,上記の知見をもとに,BPD周辺群に対して見捨てられスキーマの変容を促す短期的介入実験の実施を行う。本研究により,BPD周辺群に対する効果的な介入方法の開発の一助となると考えられるため,意義深いといえる。

③研究の特色 
本研究により,BPD周辺群に対する見捨てられスキーマへの介入の有効性を示唆することができると考えられる。これは,近年注目されているBPDに対する認知行動理論的アプローチの効果が,本邦において実証されるという点で,有益であると考えられる。

④方法
 本研究は,スクリーニング調査,実験の説明(インフォームドコンセント),2回の実験室来室,日常生活での2週間の介入,2回のフォローアップ調査により構成されている。実験参加者の予定人数は20名である。

対象者:スクリーニング調査を行い,BPD傾向を測定する日本語版Personality Diagnostic Questionnaire-Revised: PDQ-Rの得点が平均値以上で,かつ見捨てられスキーマ尺度(the Abandonment Schema Questionnaire: ASQ; 井合・矢澤・根建,2006)の得点が平均値以上である男女約20名を実験の対象とする。
手続き:本研究は,スクリーニング調査,実験の説明(インフォームドコンセント),2回の実験室来室,日常生活での2週間の介入,2回のフォローアップ調査により構成されている。
スクリーニング調査では,授業終了後の学生が集まっている場を利用し,調査協力の同意を得られた者のみに調査用紙を配布し,回答を得る。実験参加を希望したものの中で,スクリーニングの基準に合致した者に,研究実施者が連絡を取り,実験への参加を依頼する。実験者はそれぞれ介入群と待機(Waiting List: WL)群にランダムに割り振られる。介入群については,1回目の実験室来室時に,質問紙においてベースラインの測定(見捨てられスキーマとその確信度,BPD傾向等)を行う。次に,「見捨てられた」場面をひとつイメージしてもらい,実験参加者の気分,感情,行動の予測について,質問紙に回答を求める。その後,見捨てられスキーマに関する心理教育を行う。介入群にはその後,2週間のホームワークを実施してもらう。WL群については,1回目の実験室来室において,ベースライン測定とイメージ想起の実験のみを行う。
両群ともに,1回目の来室から約2週間後に再び実験参加者に実験室に来室してもらう。そして,1回目と同様にスキーマ等に関する質問紙,見捨てられ場面のイメージとその後の感情等の予測に関する質問紙に回答を求める。その後,2週間の介入実験の感想などを尋ねるインタビューを行う。WL群については,1回目と同様,ベースライン測定とイメージ想起の実験のみを行い,希望があれば介入群と同様の介入を行う。実験終了後 3カ月後および6カ月後に,フォローアップ調査を行う。
なお,実験参加者には,実験室来室時およびフォローアップ時にそれぞれ1回500円分の図書カードを謝礼として渡す。

⑤結果
 本研究は,現在も継続中である。現時点で,10名(男性6名,女性4名)の実験参加者に対して実験を行い,フォローアップ期間中である。今後も引き続き実験参加者を募り,実験予定参加人数を満たすまで研究を行う予定である。