表題番号:2011A-886 日付:2012/03/13
研究課題血小板分化における低酸素応答制御機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 金井 麻衣
研究成果概要
 現在本邦では数万人規模の血小板異常の疾患に対して、頻回の血小板輸血と平行しながら自己あるいは同種骨髄移植による治療が行われているが、ドナーの負担が多い割に回収できる血小板の産生量が少ない、頻回投与による自己抗体の出現などの問題が起こっている。これらの問題を解決するために、in vitroで血小板を分化誘導する技術の開発が強く求められている。
 近年、iPS細胞とは全く異なるシステムで、かつ遺伝子導入を用いずに、ヒトおよびマウスの脂肪組織由来前駆細胞より巨核球(血小板前駆細胞体)・血小板を誘導・産生できることが報告されてきた (Matsubara et al, BBRC, 2009)。しかしながら、その分化誘導効率は10-20%程度と低く、この技術導入による臨床応用に大きな障害となっている。そこで、本研究ではin vitroにおける効率の高い血小板技術を開発するために、低酸素応答システムを介した代謝の側面より、脂肪組織由来前駆細胞からの巨核球・血小板分化誘導機構の解明を目指した。この目的遂行のため、マウス脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)を用いて巨核球・血小板分化誘導の分子メカニズムの詳細な解析を行った。
 まず3T3-L1細胞を、血小板分化誘導培地を用いて巨核球・血小板へ分化誘導させたところ、ミトコンドリアDNA量が経時的に増加することが分かった。さらに、ミトコンドリアの機能を阻害する薬剤を用いて3T3-L1細胞を分化誘導させたところ、ミトコンドリア阻害剤によって巨核球への分化誘導が抑制されることが分かった。これらの結果から、巨核球・血小板分化過程にミトコンドリアが重要な役割を果たしていることが示唆された。
 また、3T3-L1細胞を用いて巨核球・血小板分化過程のエネルギー代謝に関わる遺伝子発現変化を解析したところ、ミトコンドリア代謝におけるマスターレギュレーターのPGC1alphaが顕著に変化することを見い出した。今後、巨核球・血小板分化過程のエネルギー代謝に、PGC1alphaが具体的にどのように関与しているのか調べるために、PGC1alphaを過剰発現あるいはノックダウンさせた細胞を作製し、FACSなどを用いて解析する予定である。また、巨核球・血小板分化過程のエネルギー代謝に関わる他の因子の探索も行い、その因子についてもPGC1alphaと同様の解析を行う予定である。さらに、以上より得られた知見が実際に個体レベルでも起こっているか調べるために、マウスの骨髄や脂肪組織を摘出し、それらの細胞を用いて同様の解析を行う予定である。