表題番号:2011A-874 日付:2012/03/26
研究課題様々な代数的シンプレクティックなモジュライ空間の双有理変換
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 専任講師 永井 保成
研究成果概要
私が以前より興味を持って研究を行ってきた対象である代数的シンプレクティック多様体は,既に知られている例を見る限り,その多くが別の代数多様体の上の対象をパラメータ付けするモジュライ空間として得られている.本研究ではそのようなモジュライ空間のうち,代数曲線上の放物Higgs束と呼ばれる対象のモジュライ空間として得られる代数的シンプレクティック多様体の幾何学,なかんずく,モジュライ理論の立場から自然に引き起こされる双有理変換に注目して研究を行った.最も基本的な場合については M. Thaddeus の研究が知られているのみであるが,その細部を検討すると,彼の手法では予測される結論を得るために代数幾何学的な操作を行う「逆構成的」なものであり,より複雑な双有理変換の記述を得るには適していないことが確認され,異なる考え方でのアプローチが必要であることがわかる.また,幾何学的により面白い双有理変換は,ベキ零軌道閉包の幾何学で現れる双有理変換とのアナロジーを考えれば,一般線形群を変換群としてもつ放物Higgs束だけでなく,別の単純代数群を変換群として持つ放物主Higgs束から得られるであろうことが予測されたが,文献調査を行ったところ,放物主Higgs束については,そのモジュライ空間の構成も含めて基本的な研究がまだ十分行われていないことがわかった.2011年度は,放物Higgs束の放物構造の変化と双有理変換について,次元の低い場合に関して具体例の計算を行った.この場合には一般にA型の向井フロップが現れるであろうことのエビデンスが得られているが,一般的な設定のもとでこれを証明するためにはモジュライ理論の観点からより洗練された記述法が必要になる.また,放物主Higgs束の基本的な性質についても研究を行った.これらの研究はまだ進行の途上にあり,論文にまとめて発表する段階までは至らなかった.これらの課題については今後も継続して研究していく.