表題番号:2011A-870 日付:2012/03/07
研究課題摩擦振子型免震機構を用いたダメージフリー橋梁の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 秋山 充良
研究成果概要
 兵庫県南部地震以降,耐震解析手法には長足の進歩が見られるのに対して,地震動評価には依然として圧倒的な不確定性が存在する.このような不確定性に対峙し,構造物の地震時安全性を確保するためには,地震動の不確定性の影響を受けないほど構造物の性能を高める必要がある.これまでのコンクリート系の耐震部材の開発では,この手段として部材靭性率を大きくしてきた.鉄道橋では,既に,降伏変位の約20 倍までの応答変位が生じても,安定した曲げ挙動を呈するRC 系の柱も開発されている.しかし,このような部材変形能により地震エネルギーの吸収を期待した構造では,地震後に相当の塑性変形が残留する.橋梁は,地震後の救助・救急活動や,都市の復興に重要な役割を果たすことを考えると,単に構造物の安全性を確保するだけではなく,地震後の即座の使用性までを考慮した部材開発が必要である.
 以上の背景のもと,本研究では,橋脚に摩擦振子型免震機構を適用し,曲面形状を適切に定めることにより,本来求められる性能を満たす橋梁(ダメージフリー橋梁)の提案を行った.提案するすべり面形状を含む複数の橋梁モデルを作製して1 方向振動台実験を行い,その性能を確認した.
 本研究により得られた知見を以下に示す.
1. 現行の耐震設計に使用する規定地震動に対しては無損傷,想定外地震動の作用時にも1 つの損傷モードしか起こらない橋梁をダメージフリー橋梁と定義し,円弧と直線のすべり面を有する曲面形状を用いた摩擦振子型免震機構を橋脚に適用した橋梁を提案した.
2. 振動台実験により,提案する曲面形状が半径一定の円弧状の形状などの他の形状と比較して,優れた性能を有することを確認した.半径一定の円弧状の曲面形状では,曲率半径により固有周期を大きくすることで加速度の低減が図れるが,一方で変位は大きく発生し,これらはトレードオフの関係にあることが確認された.提案する曲面形状では,地震動強さが小さい場合には変位,地震動強さが大きい場合には加速度を低減させるといったように,地震動の強さに応じて性能を変化させられることを確認した.
3. 最大加速度および最大変位は,簡単なバイリニアモデルで再現が可能である.しかし,残留変位については,摩擦係数を詳細に評価するモデルを用いたとしても再現が困難であることが確認された.そのため,摩擦振子型免震機構における可能最大残留変位を定義することで残留変位の最大発生値を評価する必要があることを示した.
4. 曲面すべり面を有することによる鉛直変位の発生に対して,桁の損傷抑制の観点から満たすべき曲面形状について検討した.
5. 提案する曲面形状を有するダメージフリー橋梁の設計フローを示し,実際に設計を行った.その結果,満たすべき性能を満足することを解析的に確認した.