表題番号:2011A-859 日付:2012/04/19
研究課題東北アジアにおける金融インフラストラクチャーの歴史的構造
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 矢後 和彦
研究成果概要
 本研究は、19世紀末から20世紀中葉にいたる時期の東北アジアを対象として、当該地域における金融インフラストラクチャーの歴史的構造を経済史の視点からあきらかにすることを課題とした。本研究は、当該地域の金融史を直接にあつかいながらも、同時に国際金融システムとの連関を追求し、以って東北アジアにおける金融システムの世界史的位置を展望しようとしたものである。その成果の概要は以下のとおりである。

 第一に、本研究の中核的な対象となる露清銀行(1896年創業、1910年改組)・露亜銀行(1910年創業、1926年破綻)の経営史を解明した。本研究では、一次資料に即した企業内部の動向、および東北アジアの経済・政治情勢との関連を中心に検討をすすめ、とりわけロシアの貿易構造のなかにこれら銀行の貿易金融の実態を位置づけるという点で顕著な成果があった。具体的には、帝政ロシアの貿易統計を活用しつつ、露清銀行・露亜銀行等の手形の仕向先・決済形態等の連関が実証されることとなった。その成果は以下の共同論文集の一章として掲載が決定した。
 第二に、ロシア極東・中国東北部の決済慣行の一端を解明した。とりわけウラジオストク・香港・上海など貿易決済市場の役割とそれら市場における英系・仏系銀行の活動実態が明らかになった。具体的には英系のGlyn Mills and Currie等のいわゆる手形交換所加盟銀行、また仏系のComptoir National d'Escompte de Paris等の預金銀行における収益構造と貿易決済市場の内的な連関が検証された。その成果の一部は2011年7月に研究代表者が中心となって組織した国際コンファレンスで英文で報告された。
 第三に、上述の歴史的実証をふまえた「金融インフラストラクチャー」論の理論的展開に着手した。その成果は2012年7月に南アフリカで開催される国際経済史学会のコンファレンスで報告される。当該セッションは「Imperial Banking」という視点から諸地域の金融インフラストラクチャーと銀行業務を比較する歴史研究を指向しており、国際経済史会議のエントリーをすでに受理されている。申請者は当該セッションのオーガナイザーをつとめており、現在、セッション報告の総括に向けて海外の研究者と連携して準備を進めているところである。