表題番号:2011A-838 日付:2012/03/09
研究課題歴史学力としての図像リテラシーの研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 近藤 孝弘
研究成果概要
 本研究は,歴史教科書に掲載された絵画等の図像を集団的な記憶(das kollektive Gedaechtnis)を創造してきた主要な素材と捉えた上で,それが今日の歴史教育とその学において持つ意味を検討するものである。具体的には,「図像の歴史教育学」において先進的な取り組みがなされているドイツの研究を手がかりとして,図像リテラシー教育が日本の歴史教育に対して持つ意味を追究した。
 本年度行った作業は以下の通りである。
1.この分野における第一人者であるアウクスブルク大学のポップ教授(Prof. Dr. Susanne Popp)ならびにその共同研究者であるヴォプリンク氏(Dr. Michael Wobring)に面会し,ヨーロッパ(とりわけドイツ)における最近の研究動向についての情報を得た。
2.ヨーロッパ各国の多くの歴史教科書に共通して掲載されている絵画-すなわち集団的記憶の源泉としての絵画-をテーマに作成されたドイツの歴史教育教材の収集を行った。
3.分岐型学校体系をとるドイツの各種の中等教育機関の歴史教科書の中で,それぞれ提供されている図像の性格の違い-オリジナルか,それとも,いわゆる教育的目的のために加工ないし新たに描かれたものか-についての情報を収集した。
4.複数国の歴史教科書が特定の絵画を共有する程度について,ヨーロッパ(ドイツ,フランス,オーストリア)と東アジア(日本,韓国,中国)の比較検討を行った。
 こうした作業の結果,少なくとも本研究が注目するヨーロッパ諸国では,絵画そのものが美術史上の価値も含めて歴史教育の内容として意識的に位置付けられているのに対し,東アジアにおいては,それに単なる資料-すなわち何らかの教育内容を説明するための道具-としての役割しか認めていないという根本的な差異があるという暫定的な結論に到達した。なおヨーロッパでも,絵画そのものを教育内容とする姿勢は,低学力の生徒用の教科書よりも高学力者向けの教科書に強く見られた。このことからは,日本を含む東アジアで暗黙のうちに考えられている歴史の学力は,ヨーロッパの物差しに照らし合わせるとき,基礎的なレベルにとどまっていると評価されざるをえないことが予想される。