表題番号:2011A-821 日付:2012/03/13
研究課題パーソン論における社会性、他者性の問題-身体の位置づけを巡って-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 村松 聡
研究成果概要
パーソン論において、英米系を中心とした自己意識中心パーソン論の問題点を克服するために近年展開されたコミュニタリアニズムのパーソン論、関係主義的パーソン論、フマニスト的パーソン論、さらにクヴァンテのパーソンの複合理論の四つの議論を精査した。そこから、今後パーソン論において問題となる次元とテーマを提示した。
 これはその成果を、シリーズ生命倫理学、第2巻『生命倫理の基礎概念』、「第9章 パーソン」で示している。
しかし、その問題点を克服するため積極的な論点を提示するための作業は現在も進行中であり、まだ成果として論文等にはなっていない。進行中の作業は以下のとおりである。

1.1 メルロ=ポンティーでは、他者との関わりが自己の身体理解の基本を形成していることを「間身体性」という彼の理解が示している。ここから、身体のもつ社会性という視点を開く端緒を得た。こういった理解から出発する時、自己の身体が自分のものであるとともに、社会的なものとして考えるための視点を開くことが可能である。臓器移植などにおいて、意思表示されていない遺体の提供などを考えるための一つのポイントとして確認できた。
1.2 シュッツの「社会的意味構成」における重層的な意味の層のちがいから、Internet におけるチャットやブログを通じての他者との関係とface to faceの対面的な他者との関係の分析を行い、両者の基本的な他者理解のちがいを提示するための視点を得た。

1.3については手が付いていない。

2. 生命倫理における様々な身体論展開の調査
2.1 ベルギー、フランスの臓器法の実際の運用の調査については、時間的関係で現地への調査を行えなかった。

2.2 ヨーロッパ、バイオバンクにおける試料の提供を巡る包括同意の調査
包括同意についての現地調査はできなかったが、国によって、また研究機関によって異なるあり方を、とりわけイギリス、アメリカ、アイルランドの法とガイドラインの状況を研究し、それに基づき、包括同意のあるべき姿として二段階の同意形式を提示した。また、包括同意のあり方のフィールド・ワークはできなかったが、ハヴァスパイ族(アメリカ原住民)の訴訟問題を調査し、包括同意の陥りがちな問題点を提示することができた。