表題番号:2011A-820 日付:2013/04/04
研究課題渥美半島における戦後文化運動の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 鳥羽 耕史
研究成果概要
 これまで1950年代のサークル運動や記録文学について研究してきた成果を、別所興一氏、若杉美智子氏と共に、渥美半島に住んだ作家・杉浦明平に関する共著『杉浦明平を読む “地域”から“世界”へ―行動する作家の全軌跡』として刊行することができた。また、全国的なサークル運動、中でも詩の運動について、「へたくそ詩」をめぐる学会発表と論文の形でまとめることができた。
 福岡と長崎での調査では、渥美半島のグループからサークル村と大正行動隊の視察に行った清田和夫との接点があり得た画家の菊畑茂久馬氏の講演を聞き、資料を見ることができた。また、福岡市文学館の調査からは、前述の学会発表や論文への手掛かりを得ることができた。沖縄の調査では、戦後文化運動の中でも重要な地位を占めた版画運動の二つの起源として、ドイツのケーテ・コルヴィッツ、中国の魯迅との関係を確認し、さらにそれらと関わった日本の画家たちの活動を確認することができたし、幻灯などの新たな資料についても今後の調査の必要を確認することができた。
 今年度中に形にならなかったが最も重要な成果としては、川口務氏に二回、森下隆蔵氏に一回行った聞き取り調査が挙げられる。戦後初期から杉浦明平と共に活動してきた川口氏と森下氏のお話は、杉浦の著書には表れていないディテールに富んでおり、それぞれ別の角度からの渥美半島の文化運動史と政治運動史の証言となっていた。現在は大連在住の森下氏の帰国のタイミングを待ったため年度末ぎりぎりでの調査となってしまったが、この調査には、以前から共同で渥美半島の聞き取り調査をしてきた道場親信氏、別所興一氏、若杉美智子氏も同行した。こうした調査結果をまとめていく中で、当初の構想であった渥美半島の戦後文化運動をめぐる共著につなげていきたいと考えている。
 今回の研究は、2012年度からの科学研究費補助金・基盤研究(C)「戦後期日本のサークル運動と文学についての発展的研究」の中で継続し、さらに発展させていく予定である。