表題番号:2011A-811 日付:2012/04/13
研究課題憲法と民法の近代的原初形態とその現代的変容
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 特任教授 水林 彪
研究成果概要
 1.本特定課題研究は、私自身が以前に発表した以下の3論文の延長線上に構想されたものであった。「近代憲法の本源的性格――société civileの基本法としての1789年人権宣言・1791年憲法―」(戒能通厚・楜澤能生編『企業・市場・市民社会の基礎法的考察』日本評論社、2008年)、「近代民法の本源的性格ー全法体系の根本法としてのCode civilー」(『民法研究』第5号、2008年)、「近代民法の原初的構想ー1791年憲法律に見えるCode de lois civilesについてー」(『民法研究』第7号、2011年)。これらの論文は、フランス近代(革命期~ナポレオン時代)における憲法と民法との関係(憲法と民法の近代的原初形態)について、論じたものである。
 2.本特定課題研究では、以上をふまえ、主として19~20世紀における民法の変容の研究を行った。具体的には、19世紀後末期段階におけるフランス民法典(1804年)の変容を、一個の法典草案の形でまとめたボアソナード民法典草案の研究である(いただいた助成金は、ボアソナード民法典草案関係のテキスト・資料の収集費用にあてさせていただいた)。膨大なテキストから、2011年度は、(1)債権論(フランス民法典は、契約法を債務obligationの観点から構成していたが、ボアソナードは、これに加えて、債権=対人権 droit personnelの観点からも構成した)、(2)会社契約(société)、(3)証拠(preuve)の3つの部分について精読した。 私自身、予想をこえた成果を得たと感じているのは、(1)および(3)の研究である。
 (1)の研究を通じて、ボアソナード民法典草案は、片足をフランス民法典が採用したインスティトゥティオネス体系におきつつも、パンデクテン体系に一歩踏み出す性格のものであったことを確認した。ボアソナード民法典草案の体系は、一般に、フランス型のインスティトゥティオネス体系であると評されることが多いが、それは、正確ではない。
 (3)の研究(この部分は、一橋大学法学研究科特任講師の葉晶珠氏との共同研究)を通じて、フランス型民法典は、ローマ以来の伝統をふまえて、訴訟法(訴権法と証拠法)を内包する性質を有していたこと、ボアソナード民法典草案証拠編は、この伝統を一つの編という形で明示したものであること、訴権法・証拠法を民法から切り離し、民事訴訟法にとりこむのは、ドイツ型法体系であり、今日の日本法はこの影響を受けたものであること、そのようなドイツ・日本法の背景には、国家(公法)と社会(私法)の独特の二元論が存在することを具体的に知り得たことである。
 3.以上の諸研究の一端は、国際学術シンポジウム「東アジアにおける民法の受容と展開:民法の歴史的基盤と民法改正の課題」(韓国法史学会、ソウル大学校法学研究所主催、2012年2月21-22日、ソウル)における基調講演「西洋近代民法の諸類型」として、口頭で発表した。この報告は、本年秋に、韓国法史学会機関誌上で、韓国語に翻訳されて発表される予定である。
 4.さらに、以上の研究を、『憲法・民法の近代的原初形態とその歴史的展開』(仮題)と題する単著にまとめるべく(すでにある出版社と約束ができている)、原稿を執筆中である。