表題番号:2011A-802 日付:2012/03/05
研究課題習慣形成、出生率および経済成長
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 准教授 金子 昭彦
研究成果概要
本研究は,「習慣形成,出生率および経済成長」と題して,近年注目されている習慣形成を考慮した上で,習慣形成と出生率や経済成長率との関係を明らかにした.

まずは基本モデルとなるDe La Croix (1996) “The dynamics of bequeathed tastes” Economics Letters 53, 89-96 で提示された習慣形成モデルに出生率を内生化するように拡張した.ここでの習慣形成とは,親の世代の消費パターンにより子世代の効用が変化することで,具体的には親世代が消費を多くするほど子世代の消費の限界効用が,他を一定とした場合大きくなることによって表される.モデル構築の際には,過去の内生出生動学モデルでの理論的分析で通常用いられている効用関数および生産関数,具体的には対数線形効用関数およびコブ=ダクラス型生産関数を用いた.なぜなら,よく知られているように世代重複モデルでは,代表的個人モデルとは異なり,多種多様な動学経路がごく標準的な効用関数もしくは生産関数から生じるため,得られた動学経路の性質が,習慣形成もしくは内生出生率により得られたものなのか,判別するのが難しくなるためである.また,生産構造としては新古典派成長モデルと内生成長モデル両方について分析した.内生成長モデルで分析することにより長期的な経済成長と習慣形成の関係を分析できた一方,新古典派成長モデルでは,移行過程が単純化されてしまった内生成長モデルとは異なり,定常状態に至る移行過程における習慣形成と内生出生率との関係も分析できた.


主要な結論については以下の通りである.まず,新古典派成長モデルにおいて,習慣形成の程度が強いほど定常状態における出生率が下がることが示された.定量的場分析においては,経済成長が進むにつれて出生率が下がるという先進国でよく見られる現象が再現された.これは,通常の所得効果と代替効果の他に,「習慣形成効果」と呼べる効果が存在するためである.また,内生成長モデルでは習慣形成の程度が強いほど成長率も出生率も下がることが示された