表題番号:2011A-739 日付:2013/05/09
研究課題震災で別離した親子の支援:アロマザリングとしての里親制度に注目して
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 根ケ山 光一
研究成果概要
地震に伴う原発事故により母子が関東に避難し父親が現地に残留した分離家族に対し,父母への面接・スカイプ機器貸与・子どものビデオ記録などを通じて家族を繋ぐ「かささぎプロジェクト」を立ち上げ支援を行ってきた。
家族の人間関係の特徴は,空間的な住まい方に反映される(根ヶ山,2007)。事故発生直後に多くの家族がとった母子の実家等への避難と父親の残留という選択には,母親の里帰り出産や父親の単身赴任,あるいは父母子の就寝形態などにその例が見られるような日本的な家族の特性が反映されていた。
避難家族の生活は,時系列にそっていえば,①「生存」を確保する(とりあえず被曝を避けるため,雨露をしのげる場所に移る),② 「生活」の基盤を整える(ひとまず切迫した危機を乗り越え,自律的な環境を確保するとともに,避難者のネットワークを作る),③「人生」を展望する(安定的職業と定住地を確定し,将来を見通した生活形態に入る)に分類できよう。
現在は②から③への移行期として,生活形態の再組織化の兆しがみえるとともに,地域ネットワークからの孤立化や分離の常態化によるストレスや疎遠状態の固定化など,新たな課題も出てきている段階である。とくに③の問題は,家族の分離状態の固定化,地域のネットワークの形成不全と孤立,それと裏腹の子どもの自立の阻害と母子の過剰な結合,終の棲家の確定困難とアイデンティティの浮遊状態の継続など,人生に対する実存的不安定を生みかねないという意味で深刻である。
災害に際して家族集団がとる行動は,極めて短期間のうちに刻々と変化する。自治体から緊急貸与された住宅はいずれ引き払わねばならず,今の地域に根を下ろすという見通しを持ち得ないという事情が,母子の地域でのネットワーク開拓を阻害している。また福島へ回帰することももはやありえないという。子どもも母親も,ともに新旧いずれのネットワークにも組み込まれないまま地域での孤立化を深めかねないと案じられる。また分離の常態化による父親のストレスと孤立化もこれからの大きな懸念材料となるであろう。
今後社会一般の関心の風化も予想されるところであるが,むしろ生活が安定した後に問題が表面化する可能性もある。避難家族の抱える上記のような問題はまさに憲法25条がうたう「生存権」という基本的人権が脅かされた状態である。私たちは家族が求めるニーズを絶えずヒアリングし,柔軟にかつ継続して長期にわたり支援を続けると同時に,このような基本的人権の危機に対して避難家族だけではなく彼らを取り巻く人々にも働きかけて行く必要がある。