表題番号:2011A-732 日付:2012/04/13
研究課題東日本大震災の被災地における労働組合の地域組織の役割に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 篠田 徹
研究成果概要
本調査は前半と後半に分かれる。前半は関係者からの聞き取りと文献調査から、東日本大震災の被災地における労働組合の役割に関する研究の方向性を探った。その結果、被災地における応急対応では非営利団体(NPO)の目覚ましい活躍が多数確認され、その中で労働組合も中央団体である連合が全国から多数の組合員をボランティアとして継続的に現地に派遣し、現地組織も瓦礫処理作業を中心にその受け入れ等の調整で重要な役割を担ったことが確認された。その一方震災から時間が経過し、被災地における対応も中長期的な課題に移行するに従い、労働組合を含め非営利団体の対応に限界が見られる様になった。取り分け被災地における最重要課題である雇用の確保は、企業と行政を巻き込んだより包括的な政策対応が必要であり、この点で労働組合は必ずしも有効な働き掛けや関与に成功していない。こうした前半の研究から得られた知見を踏まえ、後半は先ずこうした大量の失業ないし強い雇用不安を打開する地域的な対応に労働組合が関与した事例を国内外に探した。その結果、一九三〇~四〇年代に掛けて米国ルーズベルト政権のニューディール政策の経験に学ぶことが有効ではないかと判断し、米国現地調査を含め、この時期の雇用政策とそこへの労組の関与について文献収集を行った。こうした調査研究を通じて得られた知見の一つは、ニューディール政策が雇用促進局(WPA)等を中心に展開した、地域密着型で文化事業を含めた自発的な中小公共事業の創出を促す積極雇用政策が、今日の被災地にも求められていることである。これに加えて更に発見出来たことは、ニューディール期にはそうした積極雇用政策に呼応する勤労者の地域的組織化に向けて、労使交渉等を通じた労働条件の維持向上に留まらず、職業教育・紹介・斡旋を地域の経済的社会的需要に見合った形で調整する総合的な労働力媒介機構の整備に向けて、コミュニティ・オーガナイジング・モデルと呼ばれる地域活動の有効性が確認されたことである。本研究が発見した最も重要な知見は、今日の被災地における労働組合の地域組織もこのコミュニティ・オーガナイジング・モデルに大いに学ぶべきであるという点にある。