表題番号:2011A-715 日付:2012/03/07
研究課題東北地方太平洋沖地震で損壊した橋梁の被害分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 秋山 充良
研究成果概要
 2011年東北地方太平洋沖地震により,岩手県・宮城県・福島県内にある多くの道路橋と鉄道橋が被災した.被災の原因は,地震動自体の動的作用によるもの,津波の作用によるもの,あるいは地震動により損傷し,その後の津波の作用により倒壊したもの,の3つに分類できる.本研究では,東北地方太平洋沖地震で被災した橋梁の被害分析を進め,復興時のインフラ整備にあたっての提言,あるいは近い将来に発生が予想される東海・東南海・南海地震への対策を提言することを目的とした.
 平成23年春,夏,そして秋と,研究代表者は,土木学会地震工学委員会被災調査団メンバーなどの一員として,橋梁の被災状況を確認した.調査により明らかとなった課題は,以下の3つであった.
(1)宮城県や岩手県沿岸部にある国道45号線に架かる道路橋,仙石線や気仙沼線などの鉄道橋(架道橋や架線橋)が津波により壊滅的な被害を受けていた.重さ数百トンもある橋梁上部工が数百メートルも流出している例も見られた.特に道路橋の流出は,現地の復興の大きな妨げとなった.
(2)我が国で初めて,免震橋梁に大きな損傷が生じた.免震系の積層ゴム支承が完全に破断している事例もあった.現地の調査,およびその後に行った材料試験から,環境因子により材料的な劣化が生じ,それが地震被害を大きくした可能性が指摘された.
(3)兵庫県南部地震以降,鉄道各社では耐震補強を積極的に進めてきた.落橋につながる脆性破壊となる柱を抽出し,優先的に耐震補強を行っている.しかし,今回の東北地方太平洋沖地震では,非常に多くの柱が損傷している.何故に耐震補強が見送られた部材で損傷が生じたのかを詳細に分析し,それに基づきこの種の部材に対する耐震補強策を講じる必要がある.

 上記の3項目に対して,主に数値解析的な検討を重ねることで,以下の成果を得た.
(i)津波の作用による橋梁の流出への対応法の提案:津波の作用に対する設計は全く行われていないが,我が国の橋梁は,フェールセーフ機能として,非常に頑丈な落橋防止装置を有している.この落橋防止構造の改良により,対津波用の落橋防止構造の設計要件を整理した.
(ii)非常に長い地震動の継続時間とそれに伴う免震装置への過大な正負交番作用への対応法の提案:FEMをベースに免震支承部の非線形時刻歴動的解析を実施することで,継続時間やねじり,あるいは繰り返しの引張力が免震支承部の耐震性能に与える影響を検証した.また,ゴム支承の材料劣化と地震動の作用の複合による橋梁の安全性評価も実施した.
(iii)部材破壊モード判定法の見直し:地盤の拘束や材料強度のバラツキ,さらには,曲げやせん断の耐力評価に伴うバラツキの影響により,曲げやせん断の破壊モードの判定には大きな不確定性が伴う.この種のバラツキの存在下でも確実に破壊モードの判定を実施できる手法を提案した.