表題番号:2011A-705 日付:2012/03/05
研究課題大規模災害復興のための官民協働枠組の法的設計
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 中村 民雄
研究成果概要
 本研究は、大規模災害復興の初期から中期の段階(災害発生から最初の1カ月から半年程度)に必要な官民協働のための法的枠組を設計することを目的とした。具体的には、2011年3月11日の東日本大震災から最初の半年間ほどについて、被災地域の自治体と全国・全世界から結集した災害ボランティア団体や個人との連携を効率的かつ効果的に高める一定の体制を標準モデルとして提示することを目標にした。

 研究の成果は、2つある。第1は、実証研究を通して、日本社会がもつ災害救援の最善実務を突き止めたこと。第2は、実証研究をもとに、災害復興のための、官民協働・基本ガイドライン案を提示したことである。

 第一の実証研究とは、阪神・淡路および東日本の2つの大震災からの復興時に実践された、ボランティアと自治体その他の公共機関との協働復興の事例研究である。とくに2011年9月に、東日本大震災の被災地救援・復興のために、ボランティアが自治体等と連携しながら組織的に効果的な救援活動をうまく行った、石巻、そして遠野の事例を現地調査し、また仙台市の社会福祉協議会についても、比較対象のために面会調査した。この実証研究の結果、既存の日本の官民協働モデルは、改善するほうがより、効果的になることが判明した。ボランティアを被災地の社会福祉協議会が災害ボランティアセンターを立ち上げて、そこに集中的に受け付けや仕事の配分を任せるという、社会福祉協議会中心型のモデルは、大規模で広域の災害の場合、被災者の数もボランティアの数や種類もあまりに多いため、まったく機能不全に陥ることが、仙台市社会福祉協議会への面会調査から判明した。その一方で、石巻や遠野や、かつての阪神・淡路大震災の際の神戸に見られたような、ボランティア団体が中心となって、ボランティア団体や個人の水平的な自主的連携組織を作り、そこに社会福祉協議会や自治体や警察や自衛隊などの公的機関も情報共有のために参加するという、ボランティア・社会福祉協議会・自治体(公共機関)の三者協議会モデルが、初動(最初の1カ月)からきわめて効果的かつ効率的な救援効果を発揮することが分かった。

 第二のガイドライン案の提示については、第一の実証研究から得た、三者協議会モデルを災害復興のための初動段階から中期までなめらかに移行できる、基本形として、ガイドラインとして提示するという研究成果である。この第二の成果が、社会的に重要である理由は、3つある。
 1つは、日本社会が経験した災害救援の知恵のうちベストのものを文章化し、災害救援の経験の有無をとわず、だれもが共有できる、共有の知恵に転換した点が重要である。事前の経験がまったくない人が自治体の災害担当者であったとしても、このガイドラインに即して、ボランティア団体と協力していけば、初動から実効的に救援ができるからである。東日本大震災での石巻で、三者協議会が初期から出来たのは、神戸の震災を経験したボランティアが救援に来て、当時のノウハウを伝授したからであるが、これは人と人のつながりに限定されてしまう。そのノウハウをガイドラインとして、社会一般に共有できるものとすれば、たとえ神戸や石巻のボランティア経験がない人であっても、有効に被災地で初期から連携を確保できる。
 2つは、ボランティアの力を自治体が積極的に活用するためにはどうすればよいかを具体的に示した点だ。多くの自治体は、ボランティアを行政の手足や補助としか捉えていないが、行政にできないことをボランティアは柔軟かつ多様にする力がある。ガイドラインではボランティアを独立の主体として捉えており、自治体に対して、新たな認識を持つように提言する点でも重要である。
 3つには、震災・水害・火山噴火など自然災害のほとんどに応用できる、救援体制の基本形を示した最小限のガイドラインであって、各地の地形や災害の規模・種類など、日本各地の多様性に応じて、柔軟に各地で工夫を追加できるように、開かれた形で作られているので、きわめて使いやすく、かつ今後も改善改訂していけるようにできている。この点でも重要である。
 
 以上が研究成果であるが、社会の経験知・ノウハウをルール化する点で法学の手法を用いたのであり、法学部ならではの社会貢献になったと自負している。