表題番号:2011A-615 日付:2013/03/30
研究課題自律的日本語学習の支援を基盤とした留学生支援システムの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 細川 英雄
研究成果概要
早稲田大学では,4000名以上在籍している学部・大学院留学生の受け皿として,様々な日本語学習リソースや留学生サポートが用意されてきた。例えば,日本語教育研究センターが提供する多様な日本語科目を始め,個人チューター制度,学生読書室(22号館3階)などの日本語学習リソースや,日本人学生との相互交流・相互理解の促進を担う国際コミュニティ・センター,日本語による学術的文章の作成を支援するライティング・センターといった留学生サポートが挙げられる。しかしながら,このような学内リソースやサポートは,従来,留学生たちに十分活用されてこなかったのが実情である。これは,学内に用意された学習リソースやサポートに関する情報が,留学生たちの手元に十分に届いていなかったことが主な原因である。
そこで,学内の日本語学習リソースや留学生サポートを提供している各セクションに働きかけて連携を強化し,強固な支援ネットワークを形成することによってリソースとサポートを留学生に確実に結び付けようという構想が,日本語教育研究センターの教員の間から生まれた。日本語教員発でありながら教室の外にも積極的に目を向け,全学的な留学生支援ネットワークの拡充を目指したこの取り組みが,本特定課題研究助成を得て実現した「留学生支援システムの構築」プロジェクトである。
本プロジェクトでは,日本語学習や留学生活において疑問・問題を抱えている留学生が,留学生支援ネットワークを介し,自分に最も相応しい日本語学習リソースや留学生サポートに無理・無駄なくセルフ・アクセスできる大学コミュニティの創造を一番の目標に掲げている。この目標達成のために,支援ネットワークへの入口であり,支援拠点でもある「わせだ日本語サポート」を2011年度に開設した(2012年度からは22号館8階821室が専用スペースとなった)。また、大学院日本語教育研究科の大学院生を支援スタッフとして常駐させると共に、継続的にスタッフ・ディベロップメントに取り組み、サポートの質的向上に努めている。「わせだ日本語サポート」では,支援スタッフと一人ひとりの留学生との丁寧な対話を通じ、留学生自身による身近な学習リソースや留学生サポートを計画的・継続的に活用した日本語学習や留学生活の自主デザインを全面的にサポートしている。
この「わせだ日本語サポート」の開設は,日本語教員による大学への働きかけと,それに応えようとする日本語教育研究センター事務・教務の教学姿勢が具体的な形となって現れたものであると言える。同様に,日本語使用機会を増やしたいという留学生の要望を汲み上げた国際コミュニティ・センターによる「にほんごペラペラクラブ」の開設(2012年度秋学期),留学生の自律的日本語学習を支援するための「日本語学習アドバイジング」という観点とスキルの浸透を目指した日本語教育研究センターにおける「日本語学習アドバイジング研究会」の設置(2012年度)、大学院日本語教育研究科における理論科目「日本語学習アドバイジング」の新設(2012年度)なども,留学生支援ネットワークを一層強固なものに成長させるための日本語教員による努力の成果であり,大学コミュニティ内の各セクションに対する働き掛けから生まれた産物である。その他にも、キャリア・センター、レジデンス・センター、保健センター、学生相談室、ポータル・オフィスといった学内各セクションとも連携を図ってきた。
本「留学生支援システム構築」プロジェクトは,日本語教師が教室の壁を乗り越え,同僚である日本語教師,教務担当者,事務スタッフ,学内の留学生関連セクション等に働き掛けて大学コミュニティ全体を変えていくことにより,留学生にとってより有意義な学習環境を作り上げようとする冒険的な営みである。換言すれば,教室の外にも学びの世界を拓こうという目標を共有した教員たちが,教育機関に対して自発的・継続的に介入することにより,教育機関全体を変革していった「社会実践」ないし「アクションリサーチ」であるという理論的位置づけが可能となる。
特定課題研究助成の終了後も引き続き、学内各セクションとの協働的・実務的な取り組みも視野に入れながら、大学コミュニティをフィールドとした「社会実践」「アクションリサーチ」を健全に継続し、学術的かつ実践的な成果を蓄積・発信していきたいと望んでいる。