表題番号:2011A-607 日付:2014/04/07
研究課題下肢麻痺者に対するリハビリ効果をもった長下肢装具処方のためのシステム構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 藤江 正克
研究成果概要
本研究では下肢麻痺患者に対して処方される下肢装具の処方支援システムの構築を目的とした歩行時筋活動推定モデルの研究を行った。以下にその概要を示す。
下肢麻痺を引き起こす最も代表的な疾患として、脳卒中や脊髄損傷が挙げられる。
現在日本に、脳卒中の患者は約135万人、脊髄損傷の患者は約10万人存在し、年々その数を増している。これら、下肢麻痺の疾患を負った患者に対して、立位・あるいは歩行を補助する目的で処方されるのが、下肢装具である。下肢装具の中にも、様々な種類が存在し、患者の症状に沿った処方が望まれる。
患者の症状に対して補助が不足すれば転倒などの危険があり、補助の過剰は患者の筋力の低下を招く。
しかしながら、現在の下肢装具処方は、患者の筋力によらない補助が選択されがちであるといった問題が指摘されている。これは、臨床の現場で筋活動を定量的に計測することが難しいこと、また、筋活動が変化した際にその原因がどこにあるのが定量的推定が困難であることが原因である。
そこで、本研究の目的として、〝臨床現場で計測が可能なパラメータを用いた、筋活動の定量的推定・及び筋活動変化原因の定量的な推定が可能なモデルの構築″と設定した。
物理モデルを用いた筋活動推定では、床反力計や三次元運動計測器といった大規模な計測設備が必要になり、臨床の場で使うことが困難である。そこで、本研究では数学的手法であるベイジアンネットワークを用い、計測装置が小型で計測が容易な関節角度及び足底圧の分布を入力とした筋活動推定モデルを構築した。この際、ベイジアンネットワークの特徴の一つでもある因果関係の推定を行い、筋活動が変化した際に何が原因になっているかを推定することを可能なモデルを構築した。筋活動推定を行うにあたり、現在臨床現場で行われている徒手筋力検査法において、筋の評価が7~9段階で行われていることを参考にし、筋活動を10段階で評価することとした。また、推定の対象筋は大腿直筋・半腱様筋・前脛骨筋・長指伸筋・長腓骨筋・腓腹筋とした。
実際のモデル構築においては、被験者3名(健常被験者2名、両下肢麻痺被験者1名)で健常歩行モデルの構築を行った。その結果、筋活動の推定精度は健常者のすべての筋において90%以上の推定精度を得ることができた。また、両下肢麻痺被験者においては、健常者よりも推定精度が低下したものの、すべての筋において85%以上の推定精度を得た。これは、
また、筋活動の変化原因について、計測用の装具を用いて現在すでにある装具の条件を再現し、歩行計測を行った。装具装着歩行モデルを構築し、健常歩行モデルと比較したところ、各筋において生体工学的に正しい原因推定を行うことが可能であった。
これらのことから、本研究では因果関係の起こるパラメータの最低値、最高値を推定、影響度を定量的に示す手法を提案し、下肢装具処方支援システムの開発にむけて、関節角度・足底圧のみから筋活動量・活動量変化の原因を推定する筋活動量推定モデルを構築することで推定手法の有効性を示している。本研究の成果は、これまで患者の筋活動量に対して定量的な目標値をもって処方されることがなかった下肢装具処方に対して、臨床現場でも計測が可能な簡易なパラメータのみを用いて筋活動量の推定を行うモデルの構築を行った点、さらに、筋活動量が変化するときにその原因となるパラメータ及び、原因となる範囲の推定を可能にした点にある。この知見は今後、下肢装具と同じく物理モデルを用いることが困難な他の装具処方支援へシステムを応用されることが期待される。このように、本研究の成果は今後の下肢装具処方支援システムはいうまでもなく、支援機器処方の基準として、生体工学、福祉工学の発展にも大いに貢献するものであると考えられる。