表題番号:2011A-603 日付:2013/04/22
研究課題早稲田大学収蔵のパプア・ニューギニア民族資料データベース制作のための基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 龍三郎
研究成果概要
 2011年3月11日に見舞われた東日本大震災のために、大学院博士課程の2名が東北出身者で家が被災したが、小康状態を得たので、同年8月10日~8月24日まで、代表者の高橋は大学院生3名を引率してパプア・ニューギニアのセピク川中流域において、主にクォーマ族の民族調査を実施した。これは會津八一記念博物館に収蔵される「オセアニア民族工芸品」に関する聞き取り調査を目的としたものであった。調査は順調に進展し、イェナ、ミンジャ、ノクイというヤム・カルトに関する社会組織と、それらと密接に関係する木彫工芸品、土器などについて重要な情報を収集できた。その成果は2012年2月25日・26日に早稲田・天理・南山大学の3大学による合同シンポジュウム『パプアニューギニア民族誌から探る縄文社会』を早稲田大学で開催し、その席上で公表した。また研究成果は早稲田大学史学会刊行の『史観』第168冊にも論文で発表した。さらに2013年3月2日には天理大学主催の合同シンポジウム『パプアニューギニアの生活と神々の形』において、高橋と中門が研究成果を公表した。
 2013年3月17日~24日まで、台湾の台中に所在する国立自然科学博物館を訪ね、同館大洋州セクションに展示収蔵資料される「パプアニューギニア資料」を見学し、細かな観察をおこなった。それは展示資料中に早稲田大学に収蔵されると同じジャパンダイやワシュクク、パリンベイ、カナガムンなどの集落資料と関連する資料が多数収蔵されているためである。特にジャパンダイ村にはイェナ像、ミンジャ像、ノクイ族などの関連資料があり、本来のクォーマ族の本貫地を離れて、なぜイアツムル族のジャパンダイ村にあるのかを、物質資料から解き明かすことを目的とした。その結果、イェナ像には、ワシュククやミノ、トングィンジャブ村などクォーマ族の本来のものとは若干の違いのある逸脱した特徴が見られるなど、重要な学術的成果を得た。またパプアニューギニア原住民社会と共通する部族社会を構築する台湾原住民社会と比較研究するために、台湾大学人類学研究所博物館、中央研究院民族学研究所付属博物館、順益台湾原住民博物館、三地門台湾原住民資料館などの部族関係の資料を見学収集し、現在も山奥深くに生活するルカイ族、パイワン族の村に出向いて、多納村、霧台村、阿礼村などの石板家屋の見学を実施した。また日本の領台期に日本式の教育を受けた現地人からルカイ族とパイワン族に関する聞き取り調査を行うことができた。これらは地域を異にし、成立の歴史を異にするはずの両文化・民族が、結果として類似した部族社会をなぜ構築するのかについて考察するうえで大変重要な資料となった。