表題番号:2011A-502 日付:2013/05/10
研究課題アト秒軟X線レーザーによる多電子トンネルイオン化過程の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 新倉 弘倫
研究成果概要
本課題では高強度の超短レーザーパルスと原子・分子との相互作用に関わる、基礎的な物理過程を研究した。高強度(~10^14W/cm^2)のフェムト秒レーザーパルスを分子に照射すると、分子内の電子波動関数の一部がイオン化連続状態にトンネルし、イオン化が生じる(トンネルイオン化過程)。この過程はレーザー電場のピーク付近の数百アト秒以内に生じる。イオン化した電子はレーザー電場に1周期以内に元の分子に戻り、衝突する(電子再衝突過程)。原子とは異なり、分子の場合は束縛電子状態のエネルギー差が小さいため、複数の準位からイオン化が生じる可能性がある。どのような分子について、どのような電子準位(分子軌道)からこの過程が生じるのかを、電子再衝突によって生成した軟X線(極端紫外領域)高次高調波(レーザー)から得るという、当研究者が開発した方法を用いた。具体的な方法は以下の通りである。まず分子軸に対して電子の再衝突角度を二波長を時間的・空間的に重ね合わせたのレーザーで制御する。次に再衝突角度の関数として、高次高調波の偏光方向は、再衝突角度と分子軌道の対称性や広がりに依存するので、発生した高次高調波の偏光方向を測定することで、どのような対称性を持つ分子軌道がトンネルイオン化過程に関与しているのかを知る。二酸化炭素分子・窒素分子や炭化水素系の多原子分子を用いたところ、いくつかの分子で最高占有軌道(HOMO)からだけではなく、垂直イオン化エネルギーがそれよりも大きい軌道(HOMO-1)からトンネルイオン化過程が起こっていることが測定された。それぞれの分子について複数の分子軌道からトンネルイオン化が生じた場合、どのように高次高調波の偏光方向が変化するのかを計算した。計算結果と実験結果を比較することにより、イオン化に関与する分子軌道とそのときの割合および位相差を同定することが出来た。多電子系からのトンネルイオン化過程について、アト秒時間領域でどのような過程を経て位相差が生じるのかを、今後、詳細に研究する予定である。