表題番号:2011A-111 日付:2013/04/11
研究課題β崩壊大局的理論および原子核質量公式を用いた核データの整備
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 橘 孝博
研究成果概要
我々早稲田大学の理論原子核研究グループが長年培ってきた、ベータ崩壊の大局的理論を用いて、
ベータ崩壊に関連した諸性質の数値データを理論的に推定することができるが、本研究ではこの
モデルを用いていくつかの計算をすすめた。
そのひとつは、ベータ崩壊の大局的理論に含まれているパラメータ値を見直すための、第一禁止
遷移が果たしている役割の分析である。ベータ崩壊のオペレータは許容遷移、第一禁止遷移、第二
禁遷移、、、、に分類でき、この順にベータ崩壊への影響が大きい。このモデルには、主要である
許容遷移と第一禁止遷移が、無理なく含まれており、これがこのモデルの特徴にもなっている。
今回は、第一禁止遷移のベータ崩壊強度関数だけを分離して計算し、その特徴をみた。特に、天体
におけるr-過程元素合成で重要な核種領域、つまり安定核から遠く離れた中性子過剰核領域で計算をし、
データの分析をおこなっている。分析には、実験データとして、Evaluated Nuclear Structure Data
File (ENSDF) にまとめられたものも用いるが、それらの中から理論を補強できる有用なデータを絞り
出す作業が必要となる。特に、ベータ崩壊の娘核の各レベルに、ベータ崩壊の強度がどのように分布
しているか注意深く解析することが大切である。実験が不十分な場合は、娘核の高励起状態への強度が
測定されていないことが多く、そのような核種の半減期を取り除かねばならない。このように整備され
たデータで、理論のモデルに含まれているパラメータ値を再調整していく。
また別な計算もおこなった。これまで、未知核種のベータ崩壊のQ値を求めるために、主として我々
早稲田グループが開発したKTUY原子核質量公式を用いてきた。本研究では、ベルギー自由大学で開発
されたHartree-Fock-Bogoliubov(HFB)モデルで求めた原子核質量値から求めたベータ崩壊Q値を使って、
r-過程元素合成の分析に応用した。