表題番号:2011A-095 日付:2012/05/02
研究課題途上国におけるインクルージョンを目指す障害時教育の教員養成-マラウィを事例として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 黒田 一雄
研究成果概要
本課題研究においては、養護学校や特殊学級という従来型の障害児教育があまり発展していないマラウィを事例として、関連調査を実施しました。マラウィは東南部アフリカに位置し、途上国の中でも最貧国に属しています。現地調査においては、以下の2点を主な研究目的に据え、15日間に渡る調査を実施しました。1点目は「教員養成の現状把握(初等・中等及び障害児教育)」です。そして2点目は「インクルーシブ教育を組みこんだ初等教員養成モデル案の検討」です。
まず、1点目の教員養成機関における実態調査においては、教育省、教育研究所、モントフォートカレッジ(マラウィで唯一の障害児教育専門の教員養成大学)、リロングウェ初等教員養成大学、ドマシ中等教員養成大学の5機関を訪問し、調査を実施しました。関連資料の収集により、教員養成カリキュラムや入学要件、現職教員研修の目標と方法を確認しました。また、教育省でのインタビュー調査により、現在、マラウィではインクルーシブ教育を志向し、当該政策の導入に向けた教員養成政策を立案している事が判明しました。しかしながら、マラウィにおいては初等教員養成機関が5校、中等教員養成機関が1校のみと養成機関が限定されているため、教員養成大学でのPre-service trainingと同時並行で、現職教員研修を実施し、インクルーシブ教育を広めていく計画との事でした。尚、マラウィでは初等教育が無償化され、一般教員不足も深刻化している状況(教員数対児童数:87対1)が判明しました。
2点目の初等教員養成モデルの検討においては、上記の通りインクルーシブ教育を志向し、Pre-service trainingとIn-service trainingを同時並行で実施していく教員養成政策が計画されている事が判明しました。本計画では3年程で全ての教員に「インクルーシブ教育の理念と教育方法を修得させる」という理想的ものでした。しかしながら一方で、一般学校での調査(授業観察、インタビュー)結果を分析した所、マラウィで上記の教員養成政策を実施し、インクルーシブ教育を導入するには、時期尚早であるという結論が析出されました。
時期尚早であると判断した理由は、以下の3点が挙げられます。1点目は「慢性的な財政不足」です。現在の教員給与でさえ十分に支払えない程、マラウィ政府は極度な財政不足にあります。そのため、教育省で計画しているインクルーシブ教育を推進するための教員養成政策や教具の購入に必要な新規の財政をどこから捻出するのか、という問題があります。また、マラウィ政府が理想としているインクルーシブ教育を導入するためには、十分な教員数と潤沢な補助機材、教具が必要とされています。そのため、当該教育を導入し、継続的に実施していくには、財政的に大きな困難が伴うであろう事が伺えました。つまり、現状では、実際の学校での状況と教育省の理想の間に大きな乖離がある事が判明しました。2点目は「教員を取り巻く環境の劣悪さ」です。特に初等教員の労働環境は劣悪で、初等教員の離職率は近年上昇し続けている事が判明しました。その上、さらにインクルーシブ教育を何の財政支援も見込めない状態で導入したとしても、教室の中ではインクルーシブ教育ではなく、統合教育(Integrated Education)になると予測されます。そして、3点目には上述の通り、教員養成大学のリソース不足が挙げられます。以上、本調査を実施した結果、全ての教員を訓練して実施するインクルーシブ教育ではなく、障害児教育の訓練を受けた僅少な専門教員をモバイル教員(巡回教員)として活用した特殊学級の普及、充実がマラウィにおける現実的な政策ではないかと判断しました。

尚、今般の調査を通じて関係者とのネットワークが構築出来ました。今後とも引き続き本ネットワークを充実させ、今後は細かな予算把握にも務めていきたいと考えています。また、本調査実施中にJICA(国際協力機構)より、モントフォートカレッジの関係者の照会を依頼され、実施しました。後日、担当者より、近い将来ボランティア(青年海外協力隊)を派遣する事になるとの報告を受けました。