表題番号:2011A-090 日付:2013/10/15
研究課題日本人ジュニアアスリートの簡便な成熟度評価指標の検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 准教授 広瀬 統一
研究成果概要
 成長期には早熟、晩熟といった生物学的成熟度の個人差が大きく存在する。この成熟度の遅速は体格や運動能力の優劣に影響するため、選手評価やフィットネスプログラミングの際に考慮する必要があると考えられている。しかしながら生物学的成熟度として用いられている骨年齢や性成熟評価法は、技術的問題や倫理的問題があるため一般化することが困難である。
上述した問題を考慮し、近年身長、体重、座高、暦年齢をもとに身長最大増加時期(PHVA)からの年齢を推定するMaturity Offset(MO)法が提唱されている。スポーツ現場で簡便に評価可能であるものの、同方法は米国のデータを用いた方法であり、日本人児童を対象とした研究は認められない。日米の児童の発育過程が異なることから、日本人児童における有用性の検討が必要と考えられる。そこで本研究はMO値の妥当性について、BTT法によるPHV年齢算出値と比較し、検討することを目的とした。また各種体力要素との関係について検討し、成長期サッカー選手の体力評価への応用について検討することを目的とした。
対象は小学校6年生(11.5-12.5歳)の成長期サッカー選手61名とした。身長、体重、座高を測定し、暦年齢とともにMaturity Offset値に暦年齢を加え、PHV年齢を算出した。また、各学校で行われている定期健康診断時の身長をアンケート調査により過去5年分を得て、AUXAL3.0(Scientific software international社)を用いてBTT法によるPHV年齢を推定した。さらに運動能力とMO値およびRUSスコアで評価した成熟度との関係を検討するために、10m・40m走タイム、5段飛びを測定した。
 MO値とBTT法、およびMO値・RUSスコア・運動能力の関係はピアソン相関係数を用いて分析した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。
まず、各種測定項目の平均値を表1に示す。次にMO法とBTT法で推定したPHV年齢の関係をみると、両者には強い相関関係が認められた(r=0.728、p<0.01)。
さらにMO値およびRUSスコアと各種運動能力との関係をみると、両者ともに40m走タイムや5段跳びとは強い相関が認められたものの、10m走タイムには相関が認められなかった。また、各種運動能力とRUSスコアおよびMO値との間の相関係数は近似していた。
本研究の結果において、MO法はBTT法で得られたPHV年齢と強い相関が認められることから、小学校6年生サッカー選手のPHV年齢推定法として妥当性のある方法だと考えられた。しかしながら一部の選手においてはMO値がBTT法よりもPHV年齢を1歳程度高く推定する、すなわち測定時点での成熟度を晩熟に見積もる傾向も示されている。今後対象人数や対象年齢層を増やし、これらの傾向を生み出す要因について精査する必要がある。
 一方、MO値およびRUSスコアと運動能力の関係をみると、両者ともに40mと緩やかな相関を、また5段跳びと強い相関を示した。また両者の相関係数が近似することから、小学校6年生を対象として40m走タイムや5段跳びの能力を評価する際には、Maturity Offset値で補正することで、成熟度の遅速を考慮して運動能力を評価可能であることが示唆された。