表題番号:2011A-087 日付:2012/03/12
研究課題静脈硬化が浸水および水中運動に対する生理応答に及ぼす影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 樋口 満
(連携研究者) スポーツ科学学術院 助教 河野 寛
研究成果概要
本研究は、加齢やトレーニング様式といった身体および動脈や静脈の硬化度といった心血管の特性が浸水時の心血管応答に及ぼす影響について検討し、浸水時の心血管応答の規定因子を決定することを目的とした。被験者は定期的な運動習慣のない若年男性11名(22.0±1.0歳)、習慣的に持久的トレーニングを行っている若年男性15名(21.0±1.5歳)、習慣的にウェイトトレーニングを行っている若年男性12名(20.7±2.2歳)の計38名の若年男性(21.2±1.7歳)、さらに心血管疾患を有さない健康的な高齢男性20名(65.1±3.2歳)であった。水温(29.5±0.2℃)の環境下において、各自の剣状突起に合わせた水位で3分間浸水し、3分目に心拍数(HR)と血圧を計測した。また事前に陸上にて、静脈血管容量、静脈コンプライアンス、動脈の硬化度(CAVI)、動脈圧受容器反射感受性(BRS)、最大酸素摂取量(VO2max)、下腿骨格筋断面積を測定した。静脈血管容量および静脈コンプライアンスは、プレチスモグラフィー法によって評価した。動脈の硬化度の評価には、Cadio-ankle vascular index法を用いた。動脈圧受容器反射感受性は、バルサルバ中の心電図のRR間隔とフィナプレスで連続的に測定された収縮期血圧の関係から算出された。VO2maxは、自転車エルゴメーターにおいて漸増負荷運動中の酸素摂取量を測定することで得られた。下腿断面積は、磁気共鳴装置によって評価された。浸水に伴うHRの低下量は高齢者に比べて若年者で有意に高値を示した。重回帰分析により、浸水に伴うHRの低下量には年齢(β=0.16)、VO2max(β=-0.04)、BRS(β=-0.04)が総合的に関連していた。浸水に伴う収縮期血圧(SBP)の増加量は若年者に比べて高齢者で有意に高値を示した。重回帰分析により、浸水に伴うSBPの上昇には年齢(β=-0.62)、安静時の平均血圧(β=0.40)、CAVI(β=0.64)が独立して関係していることが明らかとなった。これらの結果は、浸水に伴う心拍数および血圧の応答に対して、心拍出量を規定する静脈容量や静脈硬化度は関与せず、加齢、安静時血圧および動脈スティフネスなどの動脈特性および心肺体力といった身体特性が影響を及ぼすことを示唆している。今後は、運動時の心拍や血圧応答の規定因子を探索する必要があるだろう。