表題番号:2011A-078 日付:2012/11/06
研究課題判断能力が不十分な障害者を対象とした代理人制度に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 岩崎 香
研究成果概要
1970年代初頭まで、スウェーデンにおいても大規模な精神科病院が建設されており、3万を超える病床が存在していた。ノーマライゼーションが提唱された北欧諸国においても、精神障害者は長年、医療・施設ケアの対象とされてきたのである。1966年に「精神障害者施設入院ケア法」が制定されたことにより、脱施設化が進んでいくこととなる。1990年代に実施された「精神障害者に関する調査委員会」の調査では、特に精神障害者の生活状況が劣悪であり、医療や社会福祉サービスが不足していることが指摘された。実態調査により、精神障害者の生活は、少しの手助けがあればもっと豊かで安全なものになること、本人の自己決定を支える支援が必要であることが理解されるようになってきた。1992年に出された「精神障害者に関する調査委員会」最終報告書「福祉と選択の自由」(Välfärd och valfrihet:SOU,1992:73)において、精神障害者者の地域生活を支える住居や雇用、リハビリテーションの推進が提案された。その具体的なアプローチの一つとして、パーソナル・オンブズマン(Personligt ombud、以下、POとする)による支援に、1995年から3年間限定の予算措置が講じられることとなった。
 POは2011年現在325名ほどであり、自治体によって、複数配置されているところもあるが、一人(複数のコミューンで共同しているところを含め)で担当している場合が多い。本研究では、社会庁のPO担当官及びストックホルム近郊のパラソル基金が自治体から委託されている8地域のうち7地域、8名のPOにインタビュー調査を実施した。POは国家と自治体から補助を得ているが国の事業としての正式な位置づけを得てはいないが、その経済効果は高く評価されている。インタビューを実施した8名のPOの平均年齢は51.7歳、POとしての経験は平均4.4年、担当しているクライエント数は平均21.9人で、疾患はADHD,アスペルガー、統合失調症、PTSD,AIDS,多重人格など多岐にわたっていた。共通していたのは、支援者や家族のためではなく、クライエントのために動くという徹底した姿勢、行政との交渉を支援する媒介となっている点である。日本の制度では、真にクライエントの立場に立つという支援者がいない状況下で、判断能力が不十分であるがゆえに人権が侵害される可能性をはらんでいる。福祉の供給システムが大きく異なるので、単純に日本に取り入れられる仕組みではないが、代理人制度の先駆的な取り組みとして積極的に紹介していく必要があると考えられる。