表題番号:2011A-076 日付:2012/04/09
研究課題中枢神経系発生におけるタンパク質の脱SUMO化の役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 榊原 伸一
研究成果概要
哺乳動物の脳が形成されるプロセスにおいては、多数の神経幹細胞・前駆細胞が速い細胞周期で同期的に増殖する過程と並行して、幹細胞は適切な時期に適切なタイプのニューロンを適切な数だけ産生する。このようなダイナミックで精巧な細胞分化のプロセスを遂行するためには、神経幹細胞で起きる転写レベルでの遺伝子発現調節に加えて、タンパク質の翻訳後修飾が重要な役割を担っていると考えられる。SUMO(Small Ubiquitin-related Modifier)は標的タンパク質との結合によりその機能を修飾する事で、細胞周期進行、核-細胞質輸送、転写調節など多岐の生命現象に関わっている事が報告されている。哺乳類SUMOには3種類のアイソフォームSUMO-1, -2, -3が存在し、SUMO-2とSUMO-3は非常に高い相同性(95%)を示すサブグループを形成し、SUMO-1とは機能的相違が示唆されている。一方、タンパク質からSUMOを切り離す脱SUMO化反応はSUMO特異的プロテアーゼ(SENP)により行われる。これまでに6つの異なるファミリー遺伝子SENP-1,- 2, -3, -5, -6, -7が発見されているが、その生理的役割は明確でない。哺乳類の神経分化におけるSUMO化・脱SUMO化の役割を解明することを目的としてSUMO-1、SUMO-2/3、およびSENP-2, -3, -5, -7の各タンパク質の発現パターンをマウス脳の発生過程を追って詳細に解析した。その結果、胎児期では脳室周囲に位置する神経前駆細胞および幼弱なニューロンにSUMO-2/3の発現が認められた。神経前駆細胞でのSUMO-2/3発現は出生後も維持され、成体では側脳室周囲の脳室下帯SVZに存在する神経幹細胞・前駆細胞に強い発現があった。一方、分化したニューロンではSUMO-2/3は急速に発現が消失する。また神経前駆細胞内ではSUMO-1発現は低レベルであることが示された。脱SUMO化酵素群で脳での発現が認められたのはSENP3とSENP5であるが、SENP3は前駆細胞を含めユビキタスに発現しているのに対し、SENP5は胎児期の神経前駆細胞と幼弱ニューロンで発現するが、生後になり神経発生が進むと前駆細胞での発現が消失し、ニューロンの樹状突起、特にシナプスpost側にのみ発現が局在するようになる。以上の結果から、胎児期から成体に至るまで前駆細胞の維持に未知の標的タンパク質(群)のSUMO-2/3によるSUMO化の関与が予想された。