表題番号:2011A-067 日付:2012/03/12
研究課題薄液膜内の微細化沸騰を考慮した原子炉燃料限界出力予測手法に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 特任教授 師岡 愼一
研究成果概要
緒言
各国で、経済性の観点から同じ大きさの原子炉からより多くの電気出力を発生させる、つまり出力密度の大きな原子炉(高出力密度原子炉)の開発競争が行なわれている。原子炉の運転出力は、核燃料集合体(燃料)の除熱限界(以下限界出力)で規制されており、より高い出力密度を有した原子炉を開発するため、つまり外国(韓国、ロシア、EUなど)に勝つためには、燃料の除熱限界性能を増大させることが必要である。
 本研究では、高限界出力燃料集合体開発を目指し、限界出力が発生するメカニズムを伝熱の素過程に基づいてモデル化し、さらに限界出力を予測する手法を構築することを目的とする。特に、従来の液膜ドライアウトでは低流量では限界出力測定値と予測値は一致するが、高流量域では測定値を過大評価してしまうという課題があり、計算での正確な予測はいまだなされていない状況である。対象とする条件はBWR 運転条件でありBWR 燃料相当の加熱長L≒4m、管径D≒1cm 程度である。
解析手法
燃料棒表面の流れ方向の薄液膜流の変化(流入,流出,液滴付着,液滴飛散,蒸発,の収支)から液膜消失(ドライアウト)出力を予測した。
結果・考察
従来の液膜流モデルでは液滴飛散率を計算する際、液膜・蒸気相間に生じる界面せん断力による液滴発生のみを考えている。限界出力予測計算と試験値との比較を行った結果G=500[kg/m 2s]を境に限界出力の過大評価(予測値>試験値)が見られた。従来研究における高流量領域での限界出力の過大評価の要因として液滴付着が予測値より実際は減っている、もしくは液滴飛散が予測値より実際は増えていることが挙げられる。これまで、高流量域での予測精度向上を目的とした以下のモデルが提案されている。
①液膜内沸騰による液滴飛散率の増加、②蒸気発生流速による液滴付着率抑制、③バンドル特有の断面内流速分布による液膜局所破断、④液滴衝突時の液滴発生 蒸気発生流速は、液滴流速に比較してかなり小さく、③はバンドル特有、④は知見が少ないこと、定格流量では限界熱流束は1000000W/m2 程度であり「液膜内での沸騰」が生じている可能性がある。これらの要因分析から、従来モデルで考慮されている界面せん断力による液滴発生率と液膜内沸騰による液滴発生率の式を組み合わせて計算を行った。またBWR 運転流量範囲を含む広範囲の限界出力の試験値(約600点)と予測値の比較を行い、試験値を良好に予測できた。
今回作成したモデルの信頼性を検証するため、液膜内沸騰の可能性について検討した。本研究ではChen の強制対流沸騰における熱伝達率の相関式に着目した。全熱伝達率(対流熱伝達 と沸騰熱伝達の和)における沸騰熱伝達率の存在割合を計算すると、出口付近でも沸騰熱伝達率が20%程度存在する。よって液膜内で沸騰現象が生じていると考えるのが妥当である。
結論
高流量域で測定値を過大評価してしまうメカニズムを検討し、液膜内沸騰による液滴飛散が主要因であることを明らかにし、液膜内での沸騰を考慮したモデルを組み込むことにより、BWR 運転流量範囲を含む広範囲で、限界出力試験値を良い精度で予測することができた。また、液膜内での沸騰は生じていることを明らかにした。