表題番号:2011A-051 日付:2012/04/14
研究課題iPS細胞へのリプログラミング活性を有する海洋天然化合物に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 中尾 洋一
研究成果概要
本研究では、遺伝子の改変なく細胞をリプログラミングしてiPS細胞をへと導かせることができるような手法の開発を目指して、iPS細胞誘導に必要な4遺伝子の機能を代替できるような化合物を海洋生物から探索することを目的とした。
探索源となる海洋生物はすでに所有する約1500検体に加えて、新たに約250サンプルを日本各地およびインドネシアにて採集した。
採集したサンプルから調製した抽出物ライブラリーに対して、2通りの方法で活性化合物の探索を行った。
1.まず、京都大学山中らのプロトコールに従い、Nanog-GFP-puroマウスから取り出した繊維芽細胞に対して、山中カクテルと呼ばれる4因子(Oct4、Klf4、Sox2、cMyc)の遺伝子導入を行うと、GFPを発現し緑色に光るiPS細胞を誘導できる。本研究では山中4因子から1因子ずつを取り除き、3因子を導入した状態の細胞に対してサンプルを投与して、取り除いた1因子の機能を代替してiPS細胞を誘導しうるような活性を有するサンプルを探索する。これまでに、Oct4を除いた3遺伝子を導入した細胞に対するiPS細胞誘導活性スクリーニングを行い、複数のサンプルでGFPを発現したコロニーを見出しているので、現在これらのサンプルから活性本体の精製を行っている。
2.次に、マウスES細胞を用いて、ES細胞の未分化状態を維持する活性を有する化合物の探索を行った。ES細胞の未分化状態を維持する活性を有する化合物は、iPS細胞の誘導時に補助的な機能が期待されるばかりでなく、作用メカニズムの解析によって細胞の分化制御機構をあきらかにできれば、より効率的なiPS細胞の誘導法の開発にとって有用な知見となりうる。これまでの研究で、50pg/mLという極めて低濃度でES細胞の未分化状態を維持できる化合物を見出すことに成功した。本化合物投与下で培養したES細胞をヌードマウスに移植したところ、テラトーマが形成され、三胚葉すべての組織に分化していることが確認されたため、本化合物によってES細胞の未分化性が維持されていることがわかった。現在、その作用メカニズムの解析を行っている。